二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ヨチ

INDEX|5ページ/6ページ|

次のページ前のページ
 

「そのカードは非接触型のIDカードです。入り口にあるプレートに当てるだけで一定時間開錠されます。オートロック且つ、部屋から出るにもカードがいるのでお気を付けを。任意に鍵をかけたい場合は中に入ってからやはり同じようにプレートにあててください。そうすると外からは同じかそれ以上の権限を持つカードにしかあける事ができなくなります。あなたのカードに与えられている権限はほぼ最高レベルですが、一応ここも機密施設なのであまり勝手に歩き回らないでいてくださると助かります。無記名のIDカードは通常はVIP待遇のものですからむやみに近寄ってくるものはいないでしょうが、もし誰かに付きまとわれそうになったら古泉か私の名を出してください」
 話が長いな。非接触型というとICOCAみたいなやつか。たしかあれもICチップが内蔵だ。
 って、出すのは俺の名前ではなく?
「『機関』において涼宮ハルヒさんのことを知らないものはいないのと同様にあなたのことも知られています。けれども、涼宮ハルヒさんと違ってあなたのことは名前はともかく顔はごく一部のものしか知りませんし、報せる予定もありません」
 それはまた何故だ?
「一部の積極的なものがあなたにまで接触する事の無いように情報を操作しているからですね。私も実際に古泉が涼宮ハルヒさんの退屈を紛らわせるための企画を上奏するまであなた方のお顔は存じ上げませんでした」
 守られている……のだろうな。一枚岩ではない『機関』にも情報統合思念体にも朝比奈さん(大)を代表する未来人一派にも。だれもハルヒを傷つけるわけにはいかないし、傷つけようとも思わないからその傍らにいる俺を代わりに守ってくれているのだろう。ハルヒのそばにいる者たちの中でも一番無力な俺を。
「そういえばあのときの人選はどんなふうに?」
「答えは既にご存じでしょう? 涼宮ハルヒさんが思い描く役割を体現できたもの、です。『機関』内でオーディションまでやったんですよ」
 北高の生徒会長と同じことか。
「そうですね。既に涼宮ハルヒさんの要求に応える事は私たちの間ではいたちごっこと同義です。彼女の願いがかなうべく我々の手の届くところにそういった人員がいるのか、我々が叶えようと探し出すから見つかるのかもはや分かりません」
 やれやれ。

 ところでその直後に困ったことが起きた。
 森さんは施設の中を案内してくれようとしたのだが、いざ建物に入ったところで待ちかまえていた何人かからの報告を受けて、顔色を変えると俺にこの場で待っているように言い残して廊下の先へと消えていってしまったのだ。
 誰か一人道案内に頼んでもらおうかとも考えたのだが、先程聞かされた事情を慮るとそうそう『機関』の他の人と接触を持つわけにもいかないだろうとおとなしくしていることにした。とりあえず先日の朝比奈さん誘拐事件の折りにも、見知った顔しか来なかった理由が分かった。
 それにしても暇だ。ぼんやり廊下に突っ立っているのも能がないが他にできることもない。歩き回らないで欲しいと言われたので仕方あるまい。こんな時こそ新川さんとか多丸兄弟に来ていただきたいものだ。いつもなら古泉出て来いと言うところなのだが出てこれない事情を知っているとどうも呼びつけにくい。
 とりあえず壁に背中を預けてぼんやりしていると、携帯に着信があった。非通知ではあったがこの現状でかけてくる心あたりは一人しかなかったので素直にでる。
『先程は失礼しました』
「いえ、お気になさらず」
 思ったとおり、森さんだった。どうしてこちらの番号を知っているのかとかそういう追求はするだけ無駄である。
『お待たせして申し訳ありません。こちらで緊急事態がありまして』
 緊急と言うと閉鎖空間か?
『いいえ。涼宮ハルヒさんは今日は不安定そうですが今のところ閉鎖空間が発生するような状況ではありません』
 そりゃよかった。発生したら古泉も借り出されるんだろうしな。
『そうですね。ただ、まだもう少し処理にかかってしまうんです。その間ずっと入り口でお待ちいただくのも申し訳ないので、いったん外に出てそちらから庭の方へと回っていただけますか?』
 承りましょう。

 この時の俺は森さんが席を外した理由もだが、ウェイティングプレイスとして庭を指示された理由をもう少し考えておくべきだった。
 あるいは、予想してしかるべきだったのかもしれない。
 やたら時間をかけて回り込んだ先の庭に、誰がいるのかを。

「よう」
 とりあえず気づかれないようにできる限りそっと歩いて声をかけたときの古泉は見物だった。
 ……うん。なんていうか、悪かった。もし次があるならあらかじめ一報入れることを約束しよう。ついでにメールか電話かぐらいは選ばせてやるよ。
 次があったらな。
「――すみません」
 呆然と、笑うことを忘れた顔のままで古泉は悄然と頭を下げた。どうやら俺は長々とここへ来た理由をこいつにわざわざ説明しなくてもいいらしい。
 今回こいつがやったことは夏休みの孤島の一件と同じだ。わかりやすい手がかりをいくつも落としておいて、いざすべてが白日の下にさらされると「参ったな、なぜ解りました?」とかいいながら笑うような出来事だった。なぜなら俺だけではなくハルヒだって朝比奈さんだって最初の手がかりはあっさりと手にしていたからな。だからハルヒが暇を訴えそうな春休みに掛けての謎かけだとしたらごくまっとうなやり方だったともいえる。
 とはいえ俺が結論にこれだけ素早くたどり着けたのは年末のあの一件があったからこそだということを付け加えて置かねばなるまい。

 つまり今回の『機関』の目的は涼宮ハルヒの退屈を解消するためのものではなく、古泉一樹の消失そのものなのである。

 問題なのはそれを『機関』そのものが目論んだと言うところだ。いつ組織の上層部がハルヒのためではなく自己の為に手駒の回収を行おうとも不思議ではないということはすでに長門の件で証明されている。というよりも誰か部員がいなくなる事でどうかなるだろうハルヒを予想してくれよ。
 たぶん『機関』は穏便に謎の転校生に当初のアイデンティティを取り戻させ、再び謎の転校生として舞台を去らせようとしたのだろう。校内の対戦相手として格好の餌食としての生徒会長の配置も終わっている。『機関』の窓口として古泉が矢面に立っていたらしいが、北高に入り込んでいるという超能力者はまだ何人かいると言うから後継者にも困らないだろう。
 ここ一年のハルヒの安定ぶりはその前の三年間に比べるとはるかにいいらしいし、冬山の時に古泉が語ったところによるとその力もだんだん控えめな発露になってきていると言うからな。影響が少なそうなうちに貴重な手駒を回収しようとしたとて何ら不思議はない。なんせ希少な戦闘能力者だ。できれば当たらせる前線は一つの方がましだろう。
 だが、それに対して無意識か意識的にかはあえて詮索しないにしても古泉は反発したのだ。まあ部室においては多分無意識だろうがな。あの奇妙さを意図したものだと言われたら俺はこいつと縁を切らせてもらう。
「ここの場所はいったいどうして?」
「長門に聞いた。協力要請をされた擬似閉鎖空間発生のための研究施設だって?」
作品名:ヨチ 作家名:結城音海