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完璧な灰にはなれないけれど

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 エリンシアがおそるおそる顔を上げると、ガリアの青年の穏やかな微笑とぶつかった。いつでもやわらかな対応を崩さないライが、しかし今は口元だけでエリンシアに笑いかけている。
「ただ、……」
「……アイクさまに、ライさまのようなご友人がいてよかったと、思います」
「女王」
「それ以上はどうかおっしゃらないでください。こう言っては失礼ですが、ライさまがその先を口になされば……アイクさまは、ひどく落胆なさるでしょう」
「……よくご存知でいらっしゃる」
「わかっているだけ……です、私は」
 ライのように自ら泥を被ってまで動くことができない。女王としての立場、貴族たちの非難の視線、そんなもののためではなく、エリンシアはエリンシア自身のために彼にこの城へ留まっていてほしかった。唇を噛むエリンシアにライはいたわりの視線を向けるが、それを受ける資格はないのだった。
「……思いのほか長く、女王のお時間を頂戴してしまいました」
 退室するライに挨拶も返せず、正面に残された空のカップを見つめながら、扉の向こうでルキノやジョフレと明るく会話しているライの声を虚ろに聞き流す。自分を哀れんで泣けるほど子どもではなく、しかしぼやける視界を自力で拓けるほど大人でもなかったので、エリンシアは重く項垂れる顔を両手で支えて生じた薄闇のなかに逃げた。
 再び目を開ければもう逃げ道がどこにも残されていないのだとわかっていも、今はそれしかできなかった。