しーど まぐのりあ3
「それ、施政者ナントカの問題ではないでしょう。」
小さい頃から、アスランは、ラクスを知っているし、一時期は、アスランがラクスと結ばれたほうがいいのではという意見もあって、婚約者になっていたこともある。だが、どうも、ふたりともお互いが世話焼きタイプであることが判明して、婚約は解消したのだ。現在は、仲のいい友人ぐらいのことになっているから、ふたりとも言いたい放題だ。そして、気に入るタイプも似ているというのが致命的だ。
「キラは、俺の伴侶にします。あなたは、虎も鷹もいるからいいじゃありませんか? 」
「あれは、友人でしてよ。だいたい、あのおふたりには、れっきとして奥様がいらっしゃいましてよ。ふふふふ・・・アスラン、正直におっしゃいませ。キラは私が好きになるだろうから来ないでほしい、と。」
「心配しなくても、キラは、マグノリアで働いていたから、そういうことは問題ないんです。残念でした。」
男性であるキラなら、ラクスに分があるという意見なわけで、即座にアスランは覆す。しかしだ。従者が急いで用意してきた飲み物を手にしたラクスは、うっすらと笑って、それを口に含み、病人に口移しで飲ませたのだ。
「アスラン、発熱には十分な水分の補給が大事です。それに、栄養失調なんですから、こういうものを口に含ませてさしあげるのが正しい看病です。」
あなた、人魚姫でしてよ、アスランと言うに至って、アスランのほうは頭痛がしてきた。最初に発見して寝台に寝かせて、濡れタオルを用意してと走り回っていたアスランの苦労というものは、この状態でキラが目覚めてしまったら、全部ラクスの功績にされてしまうのだ。それに、なんておいしいことを思いつくんだ、この魔女、とむかむかと腹までたってきた。
「俺がやります。」
「駄目です。私が用意したのですから、私がやります。ダコスタ、飲ませ終わったら、着替えをさせますから、その用意をしてくださいな。」
「さっき着替えさせました。」
「こんなに熱が高いのですから、すぐに汗で湿ります。それに、お間抜けさんの身体は鑑賞に堪えうるものと推察しますの。」
ええ、そりゃ耐えうるものでしたよ。ほっそりとした柳腰、薄い胸板、細い二の腕、どこをとっても鑑賞に堪えうる、いや、むしろ、このまま存分に、ご賞味したいぐらいのものだったとアスランは感想を心で述べる。それを、わざわざ見せてやるほど親切ではない。
いい加減にしておきなさいよ、ふたりとも・・・・と、医者が来るまで続いた無差別無分別なセクハラの数々に、ラクスの従者ダコスタは、内心で宥めていた。
過労からくる軽い風邪という診断結果を耳にして、「しばらく、看病のために滞在します。」 と、仲良くふたりが宣言したので、もう、どうとでもしてくれと、ディアッカは匙を投げてしまった。
過激な病人への看病の奪い合いを放置して、ディアッカは執務室に戻った。やりたいならやってくれ、というのが正直な意見である。執務室から、大きな声が響いていて、誰かがやってきていることはわかった。
「しばらく、マグノリアにいてくれ。」
「こらこら、理由になってないぞ、それ。」
ノックもせずに入る。誰だかわかっているから、気にしない。相手も気にするタイプではない。開いた音で振り向きはしたが、軽く手を挙げたぐらいのことだ。
「亡国のものが来た。ちょっと厄介だから、フォローを頼みたい。」
「どこのものだ。」
「ヤマト王家だ。知っているか? 」
「ああ、へぇー、とうとう、あそこも倒れたのか。どこが侵略した? 」
「虎が現在、詳細を調査中だ。近日中には判明するが、侵略したのは、隣国、背後に、その隣国。ヤマト王家の関係者が婿入りしている国だから、そういうことだろう。」
「・・・なんだ。兄弟係争かよ。」
おもしろくないと、どっかりとソファに腰を下ろした相手は、退屈だ、とのたまった。普段から、あっちこっちと国々を渡り歩き、傭兵をやって情報を仕入れるのが仕事の男は、停滞するのが苦手なのだ。
「たまには、マリューの相手をしてやればいいだろう? 鷹さんよ。」
「なんで、古女房の相手なんかしなくちゃならんかねぇ。」
それが鴛鴦夫婦として名高いものが言うことかよ、と、ディアッカは突っ込む。口では無茶苦茶な暴言を吐く男だが、延々と妻を一人に定めていて、ちゃんと、そこへ戻ってくる。
「その亡国のものは、王か? それとも子猫ちゃんか? 」
「あんた好みの子猫ちゃんだけど、アスランとラクスで取り合いになってるから参戦しないほうがいい。殺されるぞ。」
「ありゃまあ、子猫ちゃんかぁ。いいねぇー大人の魅力で、口説いてみようかなあ。」
「欲しけりゃ抱かせてやるけどさ。うちの召使になったからな。でも、覚悟しとけよ。ラクスとマリューは筒抜けだからな。」
「子猫ちゃんの味見ぐらいで、叱られるわけがないだろう。」
「いや、そうだけどさ。・・・確かに、いい感じではあるんだけどさ・・・あいつらの舌戦に耐えられるっていうなら、俺は止めないけど。」
「ディアッカ、その話は後でしろ。こっちは真剣に対応策のことだ。」
茶々の応酬なんて、後でゆっくりやればいい。とりあえず、帰ったキラの姪から派生するであろう厄介ごとを相談するのが先決だ。とはいえ、詳細な情報が届かなければ対応も難しい。
「戻されて処刑されて、完全に滅ぶのは阻止したいのか、それとも、そうしたいのか、どっちだ? イザーク。大元は、そこだ。」
鷹のほうも、イザークの求める結果だけは、知らなければならない。どうするつもりなのかによって、対応は逆転するからだ。
「出来る限り、国はゆっくりと滅びるのが望ましい。それに、あれは、そうしてやるほうがいいと俺は思っている。」
「惚れたか? 」
「難しいところだな。アスランと時間の釣り合いがいいんだ。」
「なるほど、おまえたちの後釜ってわけか。だが、おまえたちも、まだ時間はあると思うがな。」
「もちろん、俺たちの時間も十分ある。だが、そろそろ、亡国のものが辿り着くことは減るはずだ。・・・・ラクスと話していたんだが、大きな規模の戦争が終われば、国家間の争いは数十年単位で縮小する。今が、その時期だ。キラの後は、しばらくいないだろう。」
小さな王国が隣接している時代は終わりが近い。そうなれば、争いも頻発することは減少するのは自明の理だ。大国同士が戦争をするというのは、勃発するまで時間がかかるからだ。アスランと父親が、ここに辿り着いたのは三十年前だ。そこから推測すると、次は数十年は先になる計算だった。
「じゃあ、隠すだけで済むだろう。」
「さあな。もし、キラが姪に呼び出されたら、ちょっと難しい。」
「うーん、あそこの国か。なあ、俺、やっぱ、子猫ちゃんの顔を拝んでから考えるわ。おまえらが気に入ったっていうなら、見たいんでな。」
「いいけどさ。怪我しないようにな、鷹。」
そんなもん、あんたぁ、と爆笑して鷹と呼ばれる男は立ち上がる。誰もが自分の通ってきた道だ。だから、どうするのがいいのか知っている。虎の情報が届けば、対応策は練られて、キラは、亡国のものとして、ここに取り込まれることになるだろう。
「パトリックの時も往生したけどさ。」
作品名:しーど まぐのりあ3 作家名:篠義