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耳としっぽとハロウィーン

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 顔を隠す間もなく携帯を構えられて、カシャ、と耳慣れた音が響く。奪うように覗き見れば、呆然とした顔の自分が―――頭に黒い猫のような耳をつけた自分の姿が、写っていた。
「なにしてくれてんですかああああ!!!」
「やーん、可愛いー!! うんうん、いい出来よね」
「お試し版とはいえ、ちゃんとプロが作ったやつですからね」
耳を取ろうとするが、これが案外頑丈についている。強めに引っ張るとちりちりと皮膚のひっぱられっる感触がした。
「撮影用の接着剤使ってるから、無理に剥がそうとすると皮膚ごといっちゃうよ?」
「なんでそんな…」
「知り合いに特殊メイクのタマゴがいてねー。需要と供給があったというか、まああっちも実験台を探してたから貰ってきちゃった」
「それをなんで僕につけるんですか!」
「似合うから」
「似合いませんよ!!」
男子高校生に猫耳なんて、イロモノ以外のなにものでもない。正臣のように茶化して笑ってしまえるタイプならいいが、帝人はどちらかといえばノリについて行けず場を盛り下げてしまうタイプだ。
もうホントどうしよう…、と落ち込んでいると、コンビニ袋を提げた門田が戻ってきた。どこ行ってたんだろうとやや恨めしげに見つめると、耳に気づいて目を丸くする。
「あー…、いや。…似合ってる、ぞ?」
「似合いませんよ! 僕男ですよ! こういうのは、女の人とか子供がやるから可愛いんですよ!!」
「普通はそうだが…、お前はあんまり違和感ねぇな」
「他人事だと思って適当に濁さないでください…」
本心から言っている門田だが、帝人にしてみれば男子高校生に猫耳が似合うはずなどないのだ。多分適当に慰めてくれているのだろうと思ってもみるが、やはり落ち込む。
「おい、これ」
「え」
上げた顔の前に袋を差し出されて、うっかり受け取ってから首を傾げた。中を見れば、スナック菓子やプリンや菓子パンが山のように入っている。
「コンビニ菓子で悪いんだが、そんなもんで大丈夫か?」
「え? あ! すみません、ありがとうございます…!」
わざわざコンビニに菓子を買いに行ってくれたのだ。慌てて頭を下げると、大きな手が頭を―――正確には耳を撫でた。耳自体に感覚はないが、撫でられると皮膚の引っ張られるのでそうだとわかる。
「よく出来てんな、これ」
「そう、…ですね」
確かに、ちょっと触った感じではものすごく手触りはよかった。柔らかくて細くて、帝人の髪質に似ているところもあるが、なにより本物の猫を触っているのと変わらない気がする。画像に写っていた自分の顔も、いかにもカチューシャ的な耳ではなく、映画の人猫や狼男のようなリアルさだった。
これが門田についていれば、帝人も素直にすごいと賞賛しただろう。だが自分が猫耳にされてしまうとすごいなんてもんじゃない、さっさと取っ払って貰いたい。
「あ、そろそろヤバいっすよ」
「もうそんな時間か」
遊馬崎が時計を目に声を上げて、途端に戸草が早くしろと急かしだした。戸草が騒ぐからにはアイドルがらみのなにかだろう。それはいい、帝人には関係ない。が、そろって車に乗り込もうとするのには焦ってしまった。
「待ってください! どうするんですか、これ!!」
慌てて耳を指すと、狩沢が紙袋を投げてよこす。少し重いそれには、手のひらサイズの瓶がひとつ入っていた。
「それ、専用の除去剤。たっぷり塗布して15分置いて、それからお湯に着けてゆっくり剥がしてね」
「あの、」
「わからないことがあったら電話して」
去っていく車を呆然と見送って、慌てて瓶を取り出す。底に書かれた携帯番号に、帝人はがっくりと肩を落とすほかなかった。
 
 
 
 
作品名:耳としっぽとハロウィーン 作家名:坊。