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耳としっぽとハロウィーン

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10月ももう終わると言うのに、Tシャツ1枚なのだから当然だ。今日はまだ暖かい方だが、陽射しがあると汗ばむくらいだが、日陰に入るとやはり空気は冬の気配を帯びつつある。日が暮れればなおさらだろう。
『しまった。新羅に上着も持ってくるように言えばよかった』
「え? 新羅さん?」
なんのことだ、と顔を上げると、絶妙のタイミングで新羅が通りの向こうの信号下に立っているのが見えた。いつもの白衣姿で、手には紙袋を提げている。向こうもセルティに気づいたようで、信号が変わると同時に小走りに歩み寄ってきた。
「お待たせセルティ。―――はい、帝人くん」
「あの、…」
『さっき私がメールしたんだ』
そう言って、セルティが新羅の手から紙袋を取り上げ、中身をちらりと覗き見てからそれを帝人に手渡す。
『Happy Halloween!』
「あ…、ありがとうございます…」
紙袋のロゴは、池袋に支店を持つ洋菓子メーカーのそれだ。中にはリボンでデコレートされた透明な袋が入っていて、色とりどりのマカロンが可愛らしく並んでいる。
「ああ、なんだ。ハロウィンのお菓子だったのか。いやもちろん、僕のセルティが浮気するだなんてこれっぽっちも、うぐっ」
『来年は、ちゃんと手作りのものを用意しておくから』
「その右ストレートに愛を感じるよ!」
なにやらホッとした様子の新羅が、がさごそと白衣のポケットを探ってキャンディを取り出す。
「じゃあ僕からはこれを、」
『待て! 中身はなんだ!』
「なにって飴だよ? 催淫剤入りの、―――って冗談だってばセルティ、ギブギブ!」
『お前はいっぺん死んで来い』
セルティに嬉しそうに首を絞められながら、新羅が帝人の手のひらに3つのキャンディを乗せる。
「―――あ! と、『 Trick or Treat 』」
「あははは、律儀だねぇ。じゃあ、『 Treat!』ってことで、はい」
「ありがとうございます」
手のひらに乗せられたそれは、1つの大きさがちょっと小さめだ。エアガンの弾をひとまわり大きくした程度のキャンディで、赤、青、黄色の3色。
「それ、実は惚れ薬入りでね。中に液体が入ってるから、好きになって欲しい相手に目の前で噛んで食べてもらうといいよ」
「え!?」
「正確には、1つが惚れ薬で残りは解毒剤。どれがどれかは、まあ自分で試してみるといいよ」
こっそり耳元でささやかれて、思わず新羅を振り返る。悪戯っ子のように笑う表情からは嘘かホントかわからなくて、帝人は手の上のそれをじっと見つめた。
惚れ薬なんて漫画かアニメの世界だ。…そう思うが、もし本物だったらと、押さえようのない好奇心が頭をもたげ始める。
と、突然横に吹っ飛ばされて、帝人はすぐそばにあった街路樹に強かに背中を打ちつけた。痛みに耐えつつ、なにが起こったのかと身体を起こせば、つい今まで腰をおろしていたガードレールの上に赤い自動販売機が突き刺さっている。
『大丈夫か、帝人!』
「帝人くん!」
慌てるセルティの姿が自販機のすぐそばに見える。多分、彼女が自分を突き飛ばしてくれたのだろう。
事態が上手く飲み込めず呆然とそれを見つめていると、低く唸るような声が耳に響いた。
「池袋には二度とくるなって、俺は何度も言ったよなぁ…?」
聞く者を震え上がらせるような、その声。標識を肩に担いだ池袋最強が、ゆったりとした動きで帝人の前に立ち塞がった。
 
 
 
 
作品名:耳としっぽとハロウィーン 作家名:坊。