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耳としっぽとハロウィーン

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5.静雄


 
 
 
 
「聞いてんのか、テメェ!」
「は、はいっ!」
怒鳴られて思わず居住まいを正すと、サングラスをかけたままの静雄の動きがピタリと止まった。そう、まるで絵に描いたように『ピタリ』と。
「あの…」
「…お前誰だ?」
標識をすぐわきの地面に突き刺し、視線を合わせるかのように静雄が目の前にしゃがみこむ。サングラス越しにまじまじと見つめてくる顔に、呆然と言葉を返した。
「あの、…竜ヶ峰、です…」
「…だよな? じゃあなんで、お前からアレの匂いがしやがんだ…」
「アレ?」
「ノミ蟲だ。プンプン匂いやがる」
察するに、帝人を臨也と勘違いして自動販売機を投げたといったところだろうか。まだ上手く事態が飲み込めないままぼんやりと視線をさまよわせれば、ガードレールに圧しかかる赤い機体が目に入った。もしアレが当たっていたら、よくて大怪我、当たりどころが悪ければ死んでいたのかもしれない。
―――そう思った途端、信じられないほどの怒りが沸いた。日頃はとかく沸点の低い帝人だが、無意味に、手前勝手な理由で殺されかかったのだと思うと、腹の底が熱くなった。反面、頭は酷く冷たく冴えていく。
「…そんな理由で、僕を殺そうとしたんですか」
「え? いや、」
「臨也さんの匂いがしたから? だから、僕も一緒に殺してしまえって?」
「違ぇ! その、」
「静雄さんが臨也さんを嫌うのは勝手です。だからって、臨也さんの知人だというだけで狙われるなんて冗談じゃない」
「…悪かった」
「死んでたら、謝罪なんてなんの意味もありませんよ」
冷たく言い放ちながら、頭のどこかですごいことを言っているという自覚はあった。なにしろ相手はあの『自動喧嘩人形』なのだ。いつキレてもおかしくはない。
静雄に対してはセルティを介しての知人でしかないことと、人見知りな性格もあって、帝人は今まで概ね丁寧な物腰で接してきた。だが、相手によって態度を変えているつもりはないが、帝人はもともとどちらかと言えば毒舌家だ。遠慮を取っ払ってしまえば、いくらでも辛らつな言葉は吐ける。
セルティがこちらをじっと見守っていることは―――恐らく静雄がキレたら帝人をかばう為に、こちらを伺っていることはわかっていた。けれど、例えばもしこの場に静雄と2人きりだったとしても、帝人は同じことを言っただろう。殴るなら殴ればいい。なんの意味もなく、ついでのように怪我を負わされるくらいなら、自分の意思で噛みついてやる。
サングラスに覆われた顔は、静雄の表情を乏しくさせてその内面を読ませない。それでも目をそらさずに睨み続けていると、突然、静雄がその場に膝をついた。そのまま両手を地面につけ、頭を下げて―――これはいわゆる土下座というやつだろうか。
「本当に悪かった!」
「いえ、あの、…すみません、僕も言い過ぎました…」
人通りが少ないとはいえ、野次馬はそこかしこにいる。公衆の面前で静雄の土下座を受けてしまって、帝人はわたわたと両手をばたつかせた。慌てて静雄の肩に手を置いて、「お願いですから立ってください」とシャツを引っ張る。
「けど、一歩間違ったらお前死んでたんだぞ」
「静雄さんがそれをわかってくださったんなら、僕はそれでいいんです。あの、立ってください」
うっかり忘れていたが、帝人は今まだ猫の仮装のままだ。猫耳高校生に土下座するバーテン服って、端から見たらどうなんだろうと、帝人はそのまま逃走したくなった。
そんな気配を察したのか、さっと立ち上がった静雄が帝人の腕を掴む。
「怪我は?」
「大丈夫です。セルティさんが突き飛ばしてくださったので」
「そうか。…本当に悪かった」
「僕もちょっとカッとなっちゃいましたし、じゃあ、おあいこってことでいいですよね」
キレていなければ、静雄は穏やかで面倒見のいい青年だ。今も落ち込んでいるのが顕著にわかるから、帝人は大したことじゃないと笑顔を見せた。
と、背後で馬の嘶きが聞こえて、振り返ればセルティと新羅がシューターに跨っていた。もう大丈夫と、そう判断したのだろう。手を振りながら去っていく2人を見送って、ふと、帝人は強い視線を感じた。すぐ真上から注がれるそれは、帝人の頭の少し上。まさかとは思うが、今頃気づいたのだろうか。
「お前、えっと、…猫みたいな耳がついてるぞ?」
「ハロウィンの仮装なんです。学校のイベントで、お菓子をいくつ貰えるか競ってて」
「仮装? そういやセルティのちっこいのとか、俺の格好してるやつがいたな…」
「…すみません、多分、うちの生徒です」
だから言ったのに!と思ったが、怒ってはいないようだからセーフでいいのだろう。静雄は、ハロウィンがそもそもどんなものか知らないようだ。
「お化けの扮装をして、近所のお家にお菓子を貰いに行くんです。『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!』って言って」
「へぇ…。じゃあ、『Trick or Treat!』」
「え?」
キラキラと目を輝かせている、…ように見える静雄を前に、帝人はどう答えたものか暫し悩んだ。菓子を貰えるのは子供だけなんだと明かすべきだが、なんでそんな嬉しそうなんですか!と突っ込みたくなるくらい、静雄は目を輝かせていて、はっきりいえば非常に言いづらい。
そういう帝人だって高校生で、社会的には子供だが幼いと言われる年齢ではない。イベントとして乗ればいいかと割りきってみたが、ふと渡すものがないことに気づいた。
菓子ならある。それはもうたくさん。けれど、それらはすべて手持ちではなくわざわざ買ってきてくれたものたちで、手を付けもせずそのまま他人に流用するのは、さすがに躊躇われた。
 
 
 
 
作品名:耳としっぽとハロウィーン 作家名:坊。