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ハロウィンの話

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 疲れ切ったアンディがハァハァゼェ……と肩で息をしつつ、少しイラついた様子で尋ねる。
 きょとんとして、次に照れたように笑うウォルター。
「そうだ、いたずらしに来たんだった。アンディ……」
「いや、いたずらってどんないたずらなの?」
 ウォルターの言葉を遮ってアンディが訝しげに訊く。そして答えを聞く前に、目を据わらせて、ぼそりと言う。
「そのキャンディ持っておとなしく帰ってくれるなら、もう多少のことは……」
 目をつぶろう、と言おうとしたに違いないアンディの口が、ポケットに入れて出されたウォルターの手の中に視線を落とすと同時に、閉じる。
 そこには、輪ゴムがふたつ。いや、輪ゴムではない。これは髪の毛を結ぶ髪ゴム。それも花の飾りのついたもの。
「……」
 しばし沈黙。
 ウォルターのしたいことが何か察したアンディが目を見開く。
「……いたずらってそういうものじゃないでしょ!?」
 信じられないという顔でウォルターにくってかかる。
 ニヤニヤしていたウォルターは真面目な顔をして、でも目をキラキラと輝かせて、髪ゴムを手にアンディにせまる。
「ほらほら、『多少のこと』だぞ、アンディ。これが終わったらおとなしく部屋に戻るからさ。……ぐはっ」
 バチン! とあごを手で叩くように下から押し上げられてウォルターは後退する。
 怒りに目をギラギラとさせたアンディがいた。
「どこが多少のこと……? 全然許せないんだけど」
 『そのすべてが』がと言って怒りにぷるぷると震える。
 ウォルターは『いってぇ』と涙目であごをさすっていたが、キャンディの箱をぽかんと投げつけられ、『帰れ!』と怒鳴られ、ぷちっと頭の中の何かが音を立てて切れるのを感じた。
「何この扱い? そこまでするようなこと? ヒドくない? アンディ、おまえっ……」
 髪ゴムを手に襲いかかる。
「もう怒った!! 何がなんでも結んでやる! 覚悟しろ!!」
「ちょっ、なっ……このっ、はなせーっ!!」
 髪を結ぶには当然髪の毛をひっつかむわけで、暴れるアンディに、髪の毛引っ張られて痛いだろうな、とウォルターは思う。そして、暴れるほうのアンディも、ただ暴れているわけではないので、これはウォルターも痛い。
 つまり、これはもはやケンカに等しい。
「何やってるんですか!?」
 ギャーギャー騒いでいるところにやってきたモニカ秘書官の叫び。
 ふたりして固まって『え……』とお互いを見る。
 ひどい有様だ。
 殴られたりしたウォルターは青あざだし、アンディは頭ぼさぼさだし、お互い服は乱れているし、言い訳のしようがない。
「ちょっと……」
「……ケンカ?」
 ふたりして首をひねって答える。
 そこまでするほどの理由はなんだったのか、と。
「どうしてそんなことに!?」
 青ざめて問われてもすぐには答えられない。
「えー……。ウォルターがボクの髪の毛を結ぼうと……」
「アンディがつれないから」
 しばしお互い黙って考えた理由がコレ。
「ウォルター!!」
 当然、雷はウォルターに落ちた。


作品名:ハロウィンの話 作家名:野村弥広