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しーど まぐのりあ5

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「わかりました。あの、それよりも僕、もう身体は楽になったので、働かせていただきたいんです。何日も、あれから経っているし、それにカガリのこともありますから。」
 カガリのことを考えたら気が重い。館の主人たちが考えてくれると言われても、自分もできることはしてやりたいと思う。まず、食べることと寝るところのことだ。幸い、自分は個室をあてがわれているから、そちらに寝泊りさせることさえ許可して貰えればいい。食べるほうも、自分の分を分けてやれば問題はない。そういうことだけでも、主人であるイザークとディアッカにお願いしたいから、部屋から出して欲しいと、ラクスたちに頼んだ。だが、答えは否だ。
「まだまだ駄目です。キラ、あなた、栄養失調で過労で倒れているんですよ。・・・ダコスタ、革紐を濡らして持ってきてくださいな。」
「ラクス? 何をするつもりだ。」
「キラは、ちっとも言うことを聞いてくれない様子ですので、革紐で右手を寝台に縛ります。いいですか? キラ。濡れた革紐というのは、乾くと縮むのです。本来は四肢に革紐を縛り、四方に引っ張って拷問に使います。でも、キラは病人ですから、右手だけで勘弁してさしあげますわ。」
 ついでに、足の鎖もつけなおしましょう、と、ラクスが鎖を巻きつけている。どうあっても、ここから開放してくれないつもりであることは、キラにも十分すぎるほどわかった。さらに、アスランも目を爛々と輝かせて、「トイレも風呂も、俺が世話してあげるからね。」 と、嬉しそうに提案している。
「でもっっ、カガリのことは。」
「キラ、そのことはイザークたちの管轄です。あなたは、身体を癒すほうが先決です。」
「そうそう癒して、早く、俺の相手をしてくれ。そのほうが重要だ。」
「それなら、今からでも・・・ただ、クスリがないと、うまくお相手できないので、部屋から取ってきたいんですけど。」
「クスリ? 」
「ええ、マグノリアのクスリです。」
 マリューがくれたクスリは、身体を、その気にさせる効果と鎮痛効果のある薬で、それを服用すれば、素人のキラでも、とりあえず客の相手ができるという代物だった。それを使わないですることは、まだキラにはできないのだ。キラの説明に、ラクスもアスランも顔を見合わせて、「そんなものはいらない。」 と返事した。
「俺は、キラを金を払って抱くつもりはない。そうじゃなくて、薬がなくてもキラが気持ちよく溶けてしまうように抱きたい。・・・まあ、今のところは無理だね。」
「私も同意見ですわ。別に、あなたを召使として扱うつもりはないんですの。同意の上が基本ですわ。」
「ラクス、最初から申し上げているんですが、キラは、俺の伴侶となるんです。」
「まだ決まったわけではありませんでしょう。ねぇ? キラ。」
「えーっと、あの。僕、個人的な権限とか全然ないので。」
「何言ってるんだ。キラの借金なんて、俺が持参金代わりに支払うから、キラは自由の身だ。」
「いえいえ、アスラン。私が支払いますわ。」
 ふたりして、自分の借金の返済について、口論に発展している。そんなことじゃなくて、と、キラは仲裁するが、どちらも頑固で、キラの意見は、ふたり仲良く、「却下。」 と叫ばれる始末だ。届けられた革紐は、本当にキラの右の手首に巻き付けられた。「きつくすると、キラの可愛い手に痕が残るから、やさしめにします。」 とは言われたものの、やっぱり時間と共に締め付けられる。「痛いですか? もう、外へ出るなんておっしゃらないなら外してさしあげますよ。」 とか、「キラ、お風呂に入ったら、また濡れて痛くなくなるよ。」 とか、なんだかよくわからないことを言われ、キラは、ちょっと自棄になって、ふたりに背を向けて目を閉じてしまった。




 街へ出て、雇ってくれそうなところを歩いてみた。最初は、自分がかかっていた医者のところへ出向いたが、留守だった。仕方なく、市場のほうへ出て、「働かせてくれ。」 と、何軒かの店先で頼んだが、「子供なんて働かせられない。」 と、断られた。「私はオーブの皇女なんだ。」 と、身分を明かしても、別に平伏してくれるわけでもなく、やっぱり追い返される。そんなことを繰り返していたら、日が暮れて来て、仕方なくキラのいるところへ戻ることにした。キラと一緒に行けば、働かせてくれるだろうから、明日はそうしてみようと思った。しかし、離れの寝室には内側から鍵がかかっていた。どんどんと叩いて大声で叫んだら、かちゃりと扉が開いたので、閉じられないように走りこんで寝台に飛び込んだ。
「キラッッ、キラッッ。」
 広い寝台だから、直接、キラの身体の上に飛び込むことはなかったが、その声でキラは、ゆっくりと目を開けた。
「・・カガリ? ・・」
「ああ、この街は不親切だ。私が働きたいと言っても、みんな、無視する。すまないが、明日、一緒に行ってくれないか? 」
「そんなことしなくてもいいよ。」
「駄目だ。おまえと一緒に帰るには、私が働くほうがいい。」
「ごはんはどうしたの? 」
「まだだ。キラ、一緒に食べよう。私は、スフレが食べたい。」
 そう言われても、ここで作れるものではない。それに、出かけるのも無理だ。さて、どうやって説明しようか、と考えていたら、ふいにカガリが、寝台からずるずると引き摺り下ろされた。背後には、宵闇色の髪の人がいて、カガリの背中を引っ張っている。
「アスランさま、やめてください。この子は子供で、礼儀とかわかんなくて・・・」
「それ以前の問題だろう。具合が悪くて横になってる病人に、大声でわがまま放題なのは、礼儀以前の問題だ。だいたい、キラは過労で倒れているんだ。動けるはずがないし、食事を作れ、なんて、何様だっっ。」
 大国オーブの皇女です、と、キラは溜息をつきつつ、起き上がる。やっぱり、主人にカガリの滞在の許可を貰うべきだろうと思った。そうでないと、勝手に追い出されてしまいそうだ。
「キラ、起きてはいけませんよ。」
「でも、カガリの世話をする間だけは、お願いですから自由にさせてください。」
「駄目なものは駄目です。世話もしなくてもよろしいです。カガリとおっしゃいましたね? 食事が欲しければ、母屋の台所へ行きなさい。それから、眠りたいなら、となりの居間のソファで横になるとよろしいですよ。」
 もちろん、キラとの外出なんて許可できないともラクスは説明した。大人しく聞き分けるはずがない。カガリは暴れて、アスランの羽交い絞めから抜け出すと、キラの許へ飛び込む。
「すいません、僕、この子の世話だけはしないと。カガリ、ここでは好きなものは作ってあげられないんだ。僕と母屋の台所へ行って、何か食べ物をわけてもらおう。」
「しょうがないなあ。一日くらい我慢する。」
「いや、ずっと無理だと思うよ。それに、僕は、この屋敷で働くことになってるから、勝手に外出できないんだ。」
「どうして? 」
「僕は、借金する代わりに、ここで働くという約束だから、自由にはできないんだ。ねぇ、カガリ、カバンはどうしたの? あれには、きみの宝物がたくさん入ってただろ? 」
作品名:しーど まぐのりあ5 作家名:篠義