言葉が聞きたい
「文次郎ちょっとお前何考えてんだ!」
六年も半ばに差しかかったある日。
俺は自分の身に降りかかった火の粉を払うべく、残りの面々がいるろ組の部屋へとかけつけた。
「ああ? いきなりなんだ食満留」
暑い暑いと小平太が上半身裸で寝ている。隣で団扇であおいでいるのは伊作。おそらくこうでもしないと小平太が全裸になるからだろう。
その横で、同じく暑さにやられている仙蔵を団扇であおぎながら、文次郎がこちらを向く。
ランニング姿の文次郎は、以前は簡単に紐で止めていたが、二次成長が始まった頃に長次と伊作から散々言い聞かされ今のランニングに変わった。
しかし、こいつ前より胸がでかくなったな。
「どこ見てんの留さん」
伊作がにっこりと笑い、本を広げていた長次がぱたん、と閉じる気配がした。
「い、いや。っていうか思い出した、お前色の授業俺を指名したってどういうことだよ」
そう、先ほどくのいち教室の山本シナ先生ににこやかに告げられた内容。それは文次郎が色の相手に俺を指名したということ。
「はぁ? なにそれ、どういうこと文次!」
伊作だけでなく、長次も目を見開いて文次郎を振り返る。
「え、ああ、まぁ俺も女だし、一回受けとけって言われて」
「なんで相手が留さんなわけ!?」
伊作が言うのも無理はない、俺と文次郎の喧嘩の頻度は伊作が頭を悩ますほどだから。
「んー、嫌なものを最初にすると後が楽だし、あとは消去法?」
こてんと首を傾げつつ、文次郎は団扇を自分に向けてあおぐ。
「伊作はどっか失敗しそうだし、小平太は暴走しそうだし、長次は最初に相手にするのはやめとけって言われたし、まぁ一番まともそうだったから」
その答えに納得はするが、俺と長次と伊作はこっそりと文次郎の足元にいる人物に視線をやった。
女にはいつも自信満々な男が、固まっている。
「せ、仙蔵は? ほら、一番経験者っぽいっていつも言ってるじゃん」
「え、なんか嫌」
伊作が恐る恐る提案をしてみれば、ばっさりと文次郎は切った。
仙蔵哀れ。
「ちょっと待て!」
固まっていた仙蔵が突如文次郎の腕を掴み、立ち上がった。
「来い!」
入り口に突っ立っていた俺を押しのけ、仙蔵は部屋を出ていく。
「吹っ切った?」
「……いや、あれは頭に血が上って何も考えてないだけだろう」
「ってことは後でどうしようか固まるってことだよね」
「覗いたら面白いことになりそうだな」
自室に向かって歩いていく仙蔵。それに付き合う文次郎。それを見送っていた俺たちに、文次郎がふとこちらを向いた。
にぃ、と口端をあげた文次郎に、俺と伊作と長次が固まる。
「え、ちょ、マジ?」
翌日、機嫌がいい潮江文次郎と真っ赤な顔の立花仙蔵が見られました。