王子様、大激怒
ベルゼブブはアザゼルのまえに着地する。
「アザゼル君」
「べーやん! 大変なことになってしもた」
結界の力がかかったままの小さな姿のアザゼルは慌てている。
一方、ベルゼブブは冷静な様子である。
「知っています。アクタベ氏から聞きました」
そう告げると、ベルゼブブは姿を変えた。
悪魔だとわかる姿から人間に見える姿になった。
「さくまさんを捜しましょう」
ベルゼブブはアザゼルの返事を待たずに歩きだした。
それから、佐隈の写真を手にして、彼女を見かけなかったかを周辺にいる人々に聞き始めた。
なかなか有力な情報は得られない。
事実、佐隈を見なかった者が多かった。
それとは違い、佐隈を見かけたのに素直に教えてくれない者もいる。
後者であるらしいことを察すると、ベルゼブブは暴露の力を使った。
名門の家の生まれにして獄立大卒の魔界の超エリートのベルゼブブの力に逆らえる者は滅多にいない。
皆、ペラペラと本当のことを喋った。
そんなふうにベルゼブブが暴露の力を使いまくった結果、佐隈が数人の男たちにさらわれたことが判明した。
ベルゼブブは佐隈をさらった男たちが根城にしているらしいビルの一室についても聞き出した。
その情報源となった者は、彼らがそのビルの一室でいろいろと悪いことをしているらしいことも喋った。
大急ぎで、ベルゼブブとアザゼルは教えられたビルに向かう。
ビルに入ると、エレベーターを使って三階に行った。
壁などに汚れが目立つ、薄暗いビルだ。
三階には何部屋かあるようだが、佐隈をさらった男たちの巣窟となっている部屋以外は空室であるそうだ。
そのため、多少の騒ぎが起きても、他に気づかれないらしい。
ベルゼブブとアザゼルは部屋のドアのまえで立ち止まった。
ベルゼブブがドアノブをつかんで回した。
鍵がかかっている。
しかし、ドアの上半分の磨りガラスは明るい。
部屋の中の灯りのせいだろう。
男たちはきっと、このドアの向こうにいる。
佐隈も、だ。
「……アザゼル君、少し下がってもらえますか」
そうベルゼブブが穏やかな声で言った。
アザゼルは言われた通りにする。
すると。
ベルゼブブはその長い脚をあげた。
勢いよく、ドアを蹴った。
分厚くて重いドアが、あっけなく、部屋の中のほうへと倒れた。
ぼうぜんとアザゼルはベルゼブブを見る。
ベルゼブブはあくまでも冷静な表情をしている。
いや。
違う。
その端正な顔はいつもよりも鋭い。
静かに怒っているのだ。