王子様、大激怒
ベルゼブブは部屋の中に入っていった。
そのあとにアザゼルも続いた。
部屋に入ったすぐに衝立があり、その横を通りすぎると、中の様子が見えてくる。
応接セットなどが置かれてはいるが、殺風景な部屋だ。
右側の壁の窓の近くにはドアがある。
もう一室あるようだ。
そのドアは開いていて、部屋から出てきたらしい二十代前半ぐらいの男がドアの近くにいる。
ベルゼブブがドアを蹴り倒した音を聞き、何事かと思って、飛び出てきたのだろう。
男は突然やってきたベルゼブブをにらみつける。
「なんだ、おまえ!」
威嚇するように、大声を浴びせてくる。
おそらく男は他人を痛めつけたことが何度もあり、自分の強さに自信があるのだろう。
まして、今、眼のまえいる相手は、金髪碧眼の外国人であるようだが、高貴な雰囲気があって、育ちが良さそうで、争い事に慣れているようには見えない。
男がベルゼブブを自分より弱いと思っているらしいことが、その態度から感じ取れる。
「勝手に部屋に入ってきやがって。しかも、ドア、壊しただろ? んなことして、タダで済むと思ってんのか、ああ?」
けれども、その男の言葉を完全に無視して、ベルゼブブは部屋の中を進む。
男は顔をゆがめた。
「なめてんじゃねェぞ、オラァ!」
そう怒鳴り、ベルゼブブに殴りかかる。
しかし。
男の拳は、あっさり、かわされた。
そして、次の瞬間、男の身体は宙を舞った。
さらに勢いよく床へと叩きつけられる。
大きな音が部屋に響き渡った。
男を軽々と綺麗に投げ飛ばしたのは、もちろんベルゼブブである。
だが、ベルゼブブは自分が投げ飛ばした男にはまったく興味がない様子で、窓の近くにあるドアのほうへと歩いていく。
アザゼルは、一応、床に倒れている男を見た。
気を失っているようだ。
あんなに威勢が良かったのに、あっけなく倒されてしまった。
まあ、仕方ない。
ベルゼブブは、さかのぼれば異教の神に行き着く。そして、神から、天使の中でも最高位の熾天使となり、悪魔に堕ちたのだ。
そんな名門の一族の現在の代表が、ベルゼブブ優一だ。
頭脳にも身体的にも恵まれて生まれてきただけでなく、努力家でもある。
特別な力を使わなくても、強い。
「……相手が悪かったんや」
アザゼルは倒れている男の横を通りすぎるとき、そう声をかけた。
もちろん男には聞こえていないだろうが。
空いているドア、その向こうの部屋へと、ベルゼブブは足を踏み入れた。
部屋の中には男が四人いた。
皆、タチが悪そうだ。
そして。
四人の男たちはソファを取り囲むように立っている。
そのソファに佐隈がいた。