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不機嫌な防波堤

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3.

「―――まったく余計なことをしてくれる」
「その意見には俺も賛成だ」
 ハァと深い溜息をつきながら、うなだれたアルデバランは気を取り直したようにくるりと後に振り返ると、期待の眼差しを輝かせ、二人を見守る子供たちに向かってにこやかに笑いかけた。
「……“ありがとう、おまえたちのおかげで命を永らえた。感謝する”と彼は言っている」
 ワァと嬉しそうに飛び跳ねたりする子供たちを見て、アルデバランの良心はチクリと痛んだが、甲斐甲斐しく看病をした彼らに本当のことを言えるはずもなかった。嬉々として騒ぐ子供たちを冷ややかな様子で“視ている”らしい、「半」死体状態の男ーーーシャカは何か言いたそうであったが何も言わず、結局むっつりと黙り込んでいた。
 シャカとアルデバランで成立している会話は聖域では共通語として使用しているギリシャ語であったため、子供たちにはわからなかった。辛辣なシャカとの会話を子供たちが理解できなかったのは本当にこれ幸いだったと思うアルデバランである。子供たちに適当な用事を言いつけて、ようやく会話ができるまでに回復したシャカと二人きりになったアルデバランはずっと危惧していたことを持ち出した。
「ここの子供たちに何かしてみろ……俺はおまえを絶対に許さん」
 確固たる意志を明白にするかのように低く吠えると、うっすらとシャカは不敵な笑みを零した。
「―――今のこの状態で私が何かできるとでも君が思っているのだとしたら、私はとんだ勘違いをしていたようだ。君が随分私のことを買ってくれていたとはな」
「おまえがあれしきの怪我で倒れこむなど……見え透いている。何の魂胆かは知らんが、早々に出て行ってもらうからな」
「それは私が決めること。私がいつ、何処に居ようと何をしようと……私の勝手だ」
「なんだと……!」
 思わず興奮してシャカの胸倉を掴んだところへバンっと勢いよく扉を開けて飛び込んできた侵入者により、慌ててアルデバランは手を離して振り返る。
「バラン兄!・・・どうしたの?大きな声で・・・恐い顔をして」
 摘んできた花を活けた花瓶の水を換えて戻ってきた少女はほんの少し驚いた様子だったが、アルデバランが作り笑顔を向けるとほっと安堵した様子だった。シャカが密やかに口端で笑うのを感じたが、なんでもないように無視をする。
「ああ、なんでもないさ。こいつが起き上がろうとしたから、まだムリだと寝かしつけようとしただけだ」
「そうなんだ」
 あっさりとアルデバランのいう言葉を信じる少女にまたしても胸を痛めることとなった。所定の場所に花瓶を置くと少女はにっこりとシャカとアルデバランに笑みを差し向け、入ってきたと同様、勢いよく部屋から出て行った。シャカがこの家に居る限り、アルデバランは子供たちに嘘をつき続けなければならないような予感がして、暗澹たる面持ちで扉を見つめていた。しばらく重苦しい沈黙が続いたのちシャカが呟いた。
「……ここは騒がしい」
 部屋の外から漏れ聞こえるドタバタと走り回る子供たちの足音や嬌声といったものが四方から響き渡っている。ともすれば振動さえも伝わってくるほどだ。
「ボロい家だし……子供たちばかりだからな」
 古くてあちこちが継ぎ接ぎだらけの服のような家に大勢の者が身を寄せているために発生する音はおそらく、立派な石造りのしかも静寂に包まれた寺院とは雲泥の差があるだろう。シャカはそんなご立派なところに住んでいるらしいと直接本人に聞いたわけではなかったが、風の噂で聞き及んでいた。シャカにすればここは大都会の交差点なみの騒音のように不快な場所でしかないのかもしれないと思っての皮肉の言葉だった。
「いや、そうではなく……」
「?」
 言いかけて途中でやめたシャカを訝しそうに見るが、シャカはそれきり口を噤むと疲れたように掛布団を頭まですっぽりとまるで隠れるようにたくし上げ、ベッドに潜り込んだ。無言に示す拒絶にそれ以上会話を続けようとは思わなかったアルデバランは何も言わず部屋を出ると一仕事をしに子供たちを引き連れて、果樹園へと向かった。

作品名:不機嫌な防波堤 作家名:千珠