緊急指令!鹿目まどかを抹殺せよ! リリカル☆マギカ(第2話
任務中に死亡した、彼女の兄は、
死者にムチ打つ形で『犯人を逃したのは、失態だ』と
批判されたのだ。
ティアナは、兄の『執務官になる夢』を、
自分が代わりにかなえるために、人一倍努力を
重ね、――機動六課解散後に、その夢を
実現したのである。
――懐かしい、風景を前にした
ティアナは、思考停止する。
どうする?
どうしたい?
どこへ行きたい?
自分は何を考えている?
――とてもではないが、すぐに『懐かしいあの家』に
直行する気には、なれなかった。
そこで、ティアナは、町を
散策してみる事にした。
――兄と一緒に入ったレストラン。
――行きたいと、何度もせがんで、
やっと取れた兄の休暇に、連れて行ってもらった動物園。
――ティアナが、それを欲しがっていて、
彼女の誕生日に、兄が、オモチャのピストルを
買ってくれた玩具店。
――泣いていやがったティアナを、兄がむりやり
連れて行った歯医者。
どれも、今となっては、かけがえの無い思い出だった。
――段々、辺りが暗くなる。
「とにかく、いってみるしかないか。
あの我が家へ」
良く知る、近道を通り、やがて、見えてきたのは、――
ティアナが、少女時代を過ごした、――
かなり大きな家だった。
両親が、残した不動産を、兄妹が受け継いだので、
二人暮らしには、少々広すぎる家である。
ティアナは、家のドアを恐る恐る開けてみる。
すると、キッチンから、すぐに
兄のティーダが、出てきた。
「ティア! だめじゃないか!
こんな、おそくまで、1人で
出歩いたりして!
悪い人に捕まったりしたら、
どうするんだ?!」
そう、妹の為と思えば、ちゃんと厳しく叱ってくれる、
――本当の意味でやさしい、――ただ1人の家族だった。
「…………ごめんなさい。
お兄ちゃん。
それから、……ただいま」
すっかり子供に戻ってしまったティアナは、
素直に兄に、謝る。
「分かれば、よろしい!
お帰り、ティア」
兄も、すぐに笑顔になった。
「じゃあ、すぐに、晩ご飯にするから、――
着替えたら、すぐ降りておいで」
「うん」
「今日は、ランスター特製ミックス・シチューだよ!」
「わあ!」
ティアナは、この兄の作ってくれる、シチューが
大好きだった。
しかし、実は、何と言う事もない。
単純に、二種類のレトルト食品を混ぜたモノだ。
1つは少々、塩味の濃い、クリーム・シチューで、
芋と、鳥肉が入っている。
もう1つは、黄色いつぶ状の穀物を使ったスープで、
こっちは、かなり甘口の風味である。
この二つを加熱して混ぜ合わせたので、
ミックス・シチューと言っているだけなのだ。
しかし、塩味と、甘い味付けが、うまく重なり、
かなり、いける味となる。
だが、それだけでは、栄養バランスに問題が有る
ので、ティーダは、さらに、繊維質補給の
シリアル粉末製品を二袋入れる事にしていた。
出来上がったモノを、さらに、もう一度、
加熱しなおすのが、ミソである。
――ティアナは、小さかったので、
憶えていないが、兄によると、この
ミックス・シチューは、2人の母親の手料理の、
シチューと、似ている味と内容だ、と言う。
「もっとも、味は母さんの手料理の方が、
全然上だったけどね。
お芋も、鳥肉もすごくいっぱい、入っていたし」
兄は、そう言って笑うのだった。
しかし、――母親の手料理の記憶がない、
ティアナにとっては、兄の作ってくれる
このミックス・シチューが『母の味』である。
ティアナは、自室へ上がり、大急ぎで、
着替えを済ませ、1階に下りてきた。
テーブルには、大好物のミックス・シチュー。
「ちゃんと、手は洗って来たかい?
ティア」
兄が尋ねる。
「もちろん!」
元気良く答える妹。
「では、――いただきます!」
「いただきます」
スプーンに、シチューをのせて、
口へと運ぶ。
そして、―― ティアナの口一杯に、
『懐かしいあの味』が広がった。
「!!!」
「ど、どうしたの? ティア、――
ま、まだ、熱かったかな?」
妹を、心配して、声をかける兄。
それは、――妹の目から、涙がこぼれた、からだ。
「ううん、ちがうの、……
おいしいの、……
お兄ちゃんの、シチューが、すごくおいしい、――
うっ、うっ、う……」
涙があふれて、止まらなかった。
妹の様子に、オロオロする兄。
「ご、こめんね、何でもないの、――
心配させて、ごめんね、お兄ちゃん、……」
涙を拭いて、懸命に笑顔を作るティアナ。
でも、……もう、一滴、……涙がこぼれた、……
………………
「本当に大丈夫かい、ティア?」
兄は、心配そうに、妹の顔を覗き込む。
「大丈夫だって!
もう、心配性なんだから、――お兄ちゃんは!」
ティアナは、精一杯元気な自分を演じる。
「そう?
じゃあ、冷める前に、急いで食べないと!」
「うん!」
――楽しい食事は、あっと言う間に、終わり、
――あたたかな、時間は、無情にも過ぎ去る。
――もう、子供は寝る時間であった。
「さあ! 寝るのが遅くなると、
朝も起きれなくなって、
学校に遅刻するぞ!」
「うん、……
おやすみなさい、……お兄ちゃん」
「おやすみ、ティア……」
やさしい兄が、妹の額に、キスしてくれた。
しかし、――
『自分の部屋』へ、向かいながら、
ティアナは、考える。
(だ、駄目だわ! このままじゃ!)
(完全に、杏子の術中に、はまってるじゃない!)
(と、言うより、はまっている事を、
――あたしは、喜んでいる)
ティアナの、脳裏に、杏子の言葉が、蘇る。
『幸せな夢なら、ずっと見ていたい、
――人間なら、誰しも、そう考えるもんさ。
誰も、その誘惑には、勝てないぜ!』
(こう言う、――事か)
(誰でも、悪夢ではなく、良い夢なら、
目が覚めない方が良いと、思ってしまう)
(永遠に、夢の中にいる事を望むようになる)
(何とか、杏子の魔法を、打ち消さないと!)
(本当に、ここから、抜け出せなくなる!)
(――でも、どうすれば?)
答えの出せないまま、『自分の部屋』の
ドアを開ける、ティアナ。
「?? あれは?」
10歳の、女の子らしい、かわいい内装の部屋の、
床の上に、――とても見慣れた、しかし、
場違いな物体が置かれている。
ティアナは、その物体を手に取ってみた。
ずっしりと、重い、黒光りする金属製の機械。
「これは、スバルの『リボルバーナックル』?!
この、感触! 間違いない!
ほ、本物だわ!
『あの時』に、あたしが、つけてしまった傷も、
ちゃんと有る?
でも、どうして、これが?!
夕食の前に、この部屋に入った時は、
確かになかった――」
作品名:緊急指令!鹿目まどかを抹殺せよ! リリカル☆マギカ(第2話 作家名:気導士