譲れないモノ
「…フッ、ククッ」
「は、え…ちょっと何で笑うのさ!!」
どうしてか、自分は真剣に話していたはずだと言うのに笑いだしたアルヴィンにジュードは戸惑いを覚えずには居られない。
それどころか笑いをこらえきれずに肩をふるわせ続ける。
「アルヴィンっ!!…もうっ、いいよ!アルヴィンに話した僕がバカだった!」
「ククッ、いや…悪いって、怒るなって。優等生もやっぱ普通の人間だなって思っただけだよ」
「何だよそれ、言ったでしょ…ボクはそんな良い人間じゃないって」
「いやいや、間違いなくお前は良い奴だよ。それに、イスラがお前の前でしてきた事を思えばお前の反応は普通だ、場合によっちゃもっと怒ったって当たり前の事をイスラはしてきた。」
ようやく笑いを納め、真面目に言葉を返し始めたアルヴィンにジュードはまだふてくされたような表情をしていたものの反らした顔を再びアルヴィンへと向けた。
「だけど、イスラさんにも事情はあった…ボクだって、昔やった間違いをあえて皆に、アルヴィンに知られたいとは思わないから。」
「そう、それだよ。お前が良い奴だって言うのは。」
アルヴィンの放つ言葉にジュードは更にいぶかしげな表情をした、しかし不審に思ってもジュードは相手の意見を否定したりすることはない。
アルヴィンとて、コレがジュードではなくそこらの適当な顔みしりが放った言葉であれば富んだ偽善者だと心中嘲笑っていただろう。
「普通嫌な奴だとか思ったら相手の事まで考えたりしねーよ、大方は自業自得だって言うだろうぜ。イスラを許せないのは、お前が心の中で大事にしていた物、医者って存在をぶち壊すような事をしたからだろ。誰にだって譲れない物はある。」
「だけど…」
「嫌いでも良いんだよ、ミラさまなんか見てみろ。譲れないと思ったらとことんぶつかって行くぞ?まぁ、人を好きだとか嫌いだとかってのはなさそうだが。」
「譲れない、物…」
「まぁ、ろくでもない生き方して来てる俺の言葉じゃ、説得力はねーだろうけどな。ただ相手を嫌う自分を否定するのだけはやめろ。自分に嘘ばっかついてたら、俺やイスラみたいになるぜ。」
最後の方は少し茶化すように締めくくったアルヴィンの言葉にジュードは何処かバツが悪そうに、再び視線を下の方へ落としていた。
こんな所が、本当に自分とは違う、とアルヴィンは眩しいものでも見るように目を細めジュードを見つめた。
こういう所が、そもそもの性格の違いとでも言うべきか。
きっとリーゼ・マクシアに来る事がなくても、元々リーゼ・マクシアで生まれ育っていたとしても、アルヴィンは自分がこう言った、少しひねくれた物の考え方をする大人になっただろうと思えた。
嫌いなものは受け入れないだろうし、自分の境遇が悪ければ他人のせいにする、他人の粗を探してはそれを理由に相手を責める。
それが特別悪いとは言わない、良い事であるとは決して言えないが人間ならばごくごく普通に持つだろう感情だ。
けれどジュードはそれが当然の感情だと言う免罪符を決して手にしない、相手を拒むことに罪悪感を覚え、相手を受け入れようとする姿勢を常に見せる。
そして、本当に受け入れてしまうのだ。