この笑顔を忘れない
3日後、船が完成した。
その晩は宴だった。
完成した船でも陸でも世話になった人、街の人、大勢が集まった。
いつもなら俺が活躍する場面だが、俺は料理を作らなかった。
作ってしまえばバレてしまうから。
この幸せな笑顔が曇ってしまうだろうから。
ありがたいことに街の人が沢山の料理を運んできてくれる。
俺は食べる側に自然と入り込めた。
明日は出航だというのに全員が限界まで食べ、呑み続けた。
そして死んだように眠り始め、街の人はフラフラになりながら帰って行った。
もちろんうちのクルーは新しい船に出来た芝生で幸せそうに雑魚寝だ。
俺は皆を起こさないように静かに起き上がり、
まだ慣れない船内を歩きキッチンへ向かう。
鍵つきになった冷蔵庫を開け宴の前に入れておいた食材を適当に取り出す。
野菜をそのまま口にする。
果物もそのまま口にする。
「はははっ・・・くそまずいな。」
何も味のしない食材が悪いんだと思いたい衝動にかられる。
だが、悪いのは食材じゃない。
俺の舌だ。
知らぬ間に手に力が入り、持っていた林檎が潰れた。
その林檎はナミさんのためにアップルパイでも作ろうかと思って買ったもの。
1個無駄にしてしまった。
「何やってんだか…」
ロビンちゃんのために買ったコーヒー豆。
チョッパーのために買ったケーキの材料。
ウソップのために買った魚。
ゾロのために買った酒。
ルフィのために買った沢山の肉。
この冷蔵庫の中のもの、食料庫の中のもの、
全部俺が買い出しをしたものだ。
「ふざけんなっっっ!!!!!!
くそっ…くそっ…くそっっ!!!!」
「何やってんだ。」
後ろからいきなり声をかけれた。
声の主なんか振り向かなくても分かる。
「何の用だクソマリモ。」
「お前こそ何やってんだ。」
「出てけ。」
「なぁ、食いもんってのは粗末にしちゃいけねぇんじゃねぇのか?」
「・・・・。」
「お前今日なんで飯作らなかったんだ?」
なんで今に限ってよく喋るんだ。
なんで今に限って俺に話しかけるんだ。
なんで今に限って・・・
なんで俺が・・
「出てけ。」
「・・・・・」
「出てけっっ!!!!!」
「・・・・・。」
バタン。
扉の閉まる音がした。
「お前には死んでも見せたくねぇ。」
こんな無様な泣き顔なんか。
なぁゾロ、俺はお前の横に居るよな?
俺はいつからかお前の背中を見てる気がして仕方ねぇ。
俺はいつからお前に気を使わせるようなクソヤローになったんだ…
お前の傍に居たいという願いは諦めた。
だが、お前の横のポジションは絶対に譲れない。
そう思っていた。
でも、俺は負けた。
いつしかの「俺」自身に…
「覚悟決めねぇとな、」
「サンジ?」
「…チョッパーか、調度良かった。」
「・・・・・サンジ?」