【ゼルダの伝説】ワールドヴィネット
―――とある青年がおったのじゃ。父親は大工でのう、時代が時代じゃったからこのままじゃ大工にさせられてしまうと青年は親に反抗して家を出た。そうして一番賑わっていた街まで足を伸ばした。何故か賑わう場所とは人間が集まる傾向があるのう。いや人間が集まるから賑わうのか。まあそんな卵が先かニワトリが先かという話をしていても仕方がないな。とりあえずそこまで出向いたのじゃ。そこでならなにか刺激的なものがあるだろうと信じてな。それは間違っていなかった。……ある意味でな。
何があったとは聞かんでくれよ。予想はつかないでもないがお前みたいな幼い子にあんまり聞かせたくないようなことじゃからな。……とにかく青年は街の汚いところを全部吸い込んでぼろぼろになってしまったんじゃ。がりがりに痩せて、髪だって殆ど抜け落ちた。それでもなんとか青年は村まで舞い戻った。村には腕のいい薬師がいたのが幸いして、なんとか命を繋いではいた。それも気休め程度ではあったが。青年の身体はそこまでぼろぼろになってしまっていたんじゃ。村一番の大きな木の下で青年はいつも絶望に沈んでいた。そんなときに、ふと青年の耳にある情報が入ったんじゃ。……万能薬となる材料が、禁忌の森にあるとな。
青年は走ったよ。懸命に走った。もしかしたらやり直せるかもしれない、その一念で。森が禁忌とされている理由を青年は言い聞かされていた。森は人を食う存在だ。ひとたび足を踏み入れれば、もはや戻ることは叶わない。そんなことさえ気にならないほど、いや忘れるほどに必死だったのじゃ。果たして材料の茸は手に入った。だがもう足はいうことを聞かなかった。……青年の足では、それが限界だった。
再び嘆く青年の前に、ひとりの若者が現れた。腕には珍しい青い羽根をしたニワトリを抱いていた。青年は目を見張ったのじゃ。そのニワトリは青年が育てていたニワトリだった。賢いニワトリで、人の心根を見分けて懐くやつだったそうじゃ。どうしたわけか分からないが、そいつがその若者に懐いている。だがら青年はその若者に茸を託した。若者はニワトリを渡し、代わりに茸を受け取って村の薬師の元へと走った。
―――じゃがのう、既に森は青年を食い始めておったのじゃ。
……若者が万能薬を持って戻ったとき、もう青年の姿はなかった。ただおんおんおん、とどこか泣き声のような、静かに空気を震わせる音が残っていたそうじゃ。……それと、青年の座っていたところにノコギリが残っておった。それがなければ大工仕事が成り立たないような大切な道具じゃった。あれほど嫌った筈だった家業の象徴が、最後の心の拠りどころだったのじゃろうな……。
作品名:【ゼルダの伝説】ワールドヴィネット 作家名:ケマリ