【ゼルダの伝説】ワールドヴィネット
―――森の中に、ある子どもが住んでおったのじゃ。その子どもはのう、顔立ちが平凡なことを随分と気にしておったのじゃ。仲間もみんな同じ顔なのじゃから気にせずともよいものなのじゃろうがな、子供にそんな理屈は通らん。しかし顔のことなどどうしようもなかったから、子どもはその悩みをいつも胸のうちにしまいこんでおった。そんなある日のことじゃった。子どもがいつものように笛を吹いていたら、ふらりと妖精の子がやってきたのじゃよ。
ああ、そうだとも。子どもには一目で分かったのじゃ。妖精の子は揃って緑の服を着ておるからの。お前にだって見分けがつくだろうさ。
それでも気にせず楽しく笛を吹いていた子どもに、妖精の子は合わせて自分の笛を吹き出した。その曲を聴いて子どもはぴんときたのじゃよ。 それは子どもの友達が教えてくれた歌じゃったからのう。その妖精の子は、友達の友達だったわけじゃな。それが縁で子供と妖精の子は友達になり、それから何度か一緒に遊ぶようになったんじゃ。的当てをしてみたり、笛を吹いてみたり。
だんだん仲良くなっていったので、子どもはそのうちぽろりとその悩みを零したのじゃろうなあ。妖精の子はそれを聞いてぴんときたような顔をした。にこにこ笑って、今度いいものをあげるからと子どもに約束した。そうして次に出会ったとき、どこからか手に入れてきたらしいお面を手渡したのじゃよ。
ああ。ちょっと少年が見るにはコワい顔じゃったかもしれんなあ。子どもは大喜びでそれをつけた……。
二人の物語はそれでお仕舞いじゃ。
……それきり妖精の子は姿を見せなんだ。お面は外のモノ。妖精の子は外には出てはならぬモノ。―――領域を越えてしまった妖精の子は、恐らく消えてしもうたのじゃろうなあ。
外に出ただけとお前は言うがな、その外が肝要なのじゃ。妖精の子にとって内と外とはそれほどに違うものだったのじゃよ。少年は多分、村の外を見たことがあるまい?
ま、そうじゃろうな。寧ろそうでなくてはいかん。人間も魔物も揃って子どもは非力なものなのだからな。
区切ることで生き物は遥かに生き易くなる。特に人間はな。お前が見たことがない魔物は領域については敏感での、大体が区切りなぞあったもんじゃない平原で闊歩しとるのが普通じゃ。この場合最初に線を引いたのは人間じゃが、線を保っているのはお互いじゃ。人間は村という内に集まり、魔物は平原という外に集まった。どちらかに生きる以上、そこには選択があったのじゃよ。妖精の子はふらりと外に出た。そうして戻ってきたけれども、もはや内の性質は失われておったのじゃな。だからもう内で生きることは叶わなかったのじゃよ……。
作品名:【ゼルダの伝説】ワールドヴィネット 作家名:ケマリ