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【ゼルダの伝説】ワールドヴィネット

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 男の話は少年にとって悲しくて、優しくて、やっぱり哀しかった。
 そうして少年は同時に気づく。もう結構な時間少年を背負って歩き続けているのに、男は歩調どころか呼吸さえ全然乱れていないのだということを。
 男の語りが一本調子に聞こえるのは、読み慣れた本をそらんじているみたいな口調の他に、その乱れのなさがあるのかもしれない。
「……おじさん」
「せめておじいちゃんかお兄ちゃんと呼んでくれんか」
「じゃあ、お兄ちゃん」
「なんじゃ」
「―――最後のお話に、続きはないの?」
 男は肩越しに少年を振り返る。感情の凪いだ茶色いひとみが、少年を見ている。そうしてからその目は優しく細められた。
「あんまり気にせん方がよいと思うがの。これは昔話なのじゃからな」
「気になるよ。もし本当だったらその子は妖精の子の帰りをずうっと待ってたのかもしれない。そんなのさびしいよ」
「さびしい、か」
「うん……」
「そうじゃの、さびしいかもしれんな」
 男は頷いた。
「だったら少年、お前はちゃんと帰らねばならんの」
「……うん」
 少年も頷いて男の細い首にしがみついた。男が歩くたびに伝わる規則正しい振動が心地よかった。それに意識を委ねていると、ふわふわと眠気が忍び寄ってくる。そういえばこのひとに出会うまではずっと歩き通しだったんだ、と今更ながらに思い出す。
 まだ眠ってしまいたくない。なにか喋って欲しい、と少年は思った。さっきから物語のおかげで起きていたんなら、このひとが喋っていてくれたら起きていられるかもしれない。お願いしたいと思ったけれども、瞼がどんどん重くなってきて、ふにゃふにゃとした声を洩らすばかりだった。含み笑いを零し、ひとりごとのように男が呟く。


 続きこそがいちばんにさびしいものかもしれないなあ、と。