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【どうぶつの森】さくら珈琲

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 どうして?
 さっきまで出て行くかであんなに悩んでいたのに?

 理由は明白だ。わたしは弱い存在だった。ここ最近で、痛いほどそれが身に染みた。
 それでも、わたしはこの村が大好きだ。
 みんながいるこの村が。みしらぬネコさんがいたこの村が。
 わたしも彼のようになりたかった。
 自分の大切なものを守れる人になりたかった。

―――……! あいつ……。

 掲示板の前に立つ見覚えのあるカワウソを見て、思わず声が出た。そう、前は池を埋め立てようとしたあのホンマだ。
 遠くから見えた張り紙には、『産業廃棄物処理化計画』と書かれていた。
 ようするに、今度は池だけではなく、この村ごと潰す気なのだ。
 ホンマはわたしの姿に気づくと、面倒くさそうに言った。

「またアナタですか。」
―――その張り紙を取って。そんな勝手なこと、許さない。
「はぁ?」
―――ここはわたしたちの村だよ。アナタたちの好きにはさせない。
「でも、これを見てくださいよ」

 ホンマはポケットから丁寧に折りたたまれた紙を開いた。
 そちらの方には『契約書』と書かれていて、細かい文字が並んでいる。

「これは会社から指示を出されてるんですよ! もう決まったことなんです。
 こんな交通も不便で人口も少ないド田舎村、はっきり言いまして必要がないんですよ」

 わざわざホンマは、「ド田舎」の部分を強調して言った。

―――そんなのそっちの都合じゃない! わたしたちはこの村で日々生きているんだよ!
「見てください、こっちの会社だけの都合で決めたわけではありません!」

 どうしよう、と焦りが募ってきた。
 ホンマの主張を聞いてると、工事の日程が決まっていて、他のお偉い方との契約も進んでいるそうだ。
 確実にこの村は消されようとしている。
 自分の無力さが感じられる。でも、ここで折れちゃだめなんだ。

―――わたしは……この村を、渡したくない。
「お嬢さん、わがままはいい加減にしてくれませんかねぇ」

 どうしよう、どうしたら、守れるの。あなただったら、どうするの。

―――じゃあこの村の人の意見は無視なの? わたしたちこそが、住んでいる当事者なのに?

 わたしはもう、誰かに自分の気持ちを理解してもらうまで待つ受身な生き方はしない、できない。

―――ここは、わたしたちの村なんだよ!!
「その通りよ、さくらちゃーん!」

 レベッカ姉さんの声がした。振り返ると、村中のみんなが役場に集まっていた。
 それこそ、「みんな」だ。家で寝ていたとまとたちも、村長も、門番さんも。いや、住民以外の人も集まっている。
 カッペイさんやつねきち、あのゆうたろうまでもが朝に現れている。

「ちょっとー! 勝手にこの村を壊したらタダじゃ済まさないんだからね!」

 リリアンが元気いっぱいに叫ぶ。気の弱い3ごうが続いた。

「そうだよ! 正義の味方が許さないゾォ!」

 カッペイさんは唾をぺっぺっと飛ばしながら

「オメェ、さくらちゃんに手出したら承知しねぇぞ!」

 いきなりの全員集合にホンマは一瞬たじろいだようだったが、諦めずに、

「見てください! この契約書! もう決められたことなんです!!」

 と叫び続けた。



 そのとき、声が聞こえたんだ。



「本当に、そんな無茶な要求が通ると思ってるの?」

 その声を、わたしは覚えていた。
 何よりも愛しい声だった。何度も何度も、頭の中で繰り返し思い出した声だった。
 けれど、そんなわけがない、と思ってすぐに振り向けなかった。
 幻を見ているのかと思った。何度も何度もまばたきを繰り返したけれど、それは夢よりもずっとはっきりと見えた。
 彼だ。

 彼が、帰ってきた。

 彼はホンマに足早に歩み寄ると、より声を大きくはっきりと言い切った。

「その契約書細かい字でいろいろびっしーり書いてるけどさぁ。結局お偉いさんって言ってもそっちの業界だけの話だろ?
 第一村を埋め立てるなんていう大きなことのときはそんな紙切れ一枚じゃ済まない契約だと思うけどなー。」
「な、なんですかアナタは、いきなり現れて……」
「ほら、ここらへんとか、相当好き勝手書いてるよ。こんなのまず受け入れられないしね」

 ホンマが更に言い返そうとすると、みしらぬネコさんは小さなレコーダーを出す。

「あとさっきアンタが豪語してた言葉全部録音しといたからね。
 納得いかないなら正式な場所で、じっくり話し合おうか? 合ってるか確かめてもらおうよ。
 裁判所とか? あとあなたの会社って国が関わってるんだっけ……それも確認しないとね!」

 もったいぶった言い方の演出は効果テキメンだったようだ。
 ホンマは顔色を変えると、その場から離れながら、次の策を求めてケータイを取り出した。
 しかし、その後姿に彼は追い討ちをかける。

「次この村に近づいてみな。正々堂々戦うよ、アンタにそれが出来るならね」

 ホンマは高らかに舌打ちをして「これだから若いのは礼儀が……」とかなんとかごにょごにょ言いながらも、それ以上反論せず去っていった。
 さっきまでの喧騒が嘘みたいに、沈黙が流れる。
 彼はわたしの方に向き直って、言った。彼の赤い目が曲線になった。

「ただいま、さくら。」

 その笑顔も、声も、姿も……やっぱり、夢じゃない。

 わたしは彼の名を叫んだ。あの冬の日に教えてもらった、今まで呼べなかった本当の名前の方を何度も何度も叫んだ。いっぱい言いたいことがあったはずなのに、いざとなるとどれも浮かばなくて、名前を呼ぶことしかできなかった。人前なのも忘れて、彼に抱きついた。みんなもいつもみたいに冷やかしの声をあげず、息をのんでわたしたちに注目していた。
 そしてやっと、顔を見てこれだけの言葉が言えた。

―――おかえりなさい。

 わたしは続ける。

―――でも、どうして……?

「あれ、誕生日は一緒に祝う約束じゃなかったっけ?」

 と、彼はいつものように茶化した口調で言った。そして急に真面目な顔に戻って、

「なんて、……本当はね、ここに戻るつもりはなかった。
 さくらに受け入れてもらえなかったらどうしようって思っていたから。」

 と、申し訳なさそうに言った。
 そんなわけ、ないのに。

「さくらがオレにとって一番良いこと……過去と向き合わせてくれたこと、すごく嬉しかった。
 でも、サイハテ村を取り戻しても……オレ、ずっとさくらのこと考えてたんだ。
 一番大切な人を傷つけて、何やってるんだオレって。」

 わたしはただ首を横に振り続けた。

「謝りたかった。だからサイハテ村で起きたこと、全部解決したら、そうしたらここに戻ろうって思っていたんだ。
 だって、オレもこの村が好きだから。この村の美しい心のキミが、何より大切だから。
 遅くなってごめん。今更、最低な奴ってわかってる。いっぱい振り回して、傷つけて、一人にしてごめん。
 謝って済むなんて思ってないけど、本当に、悪かったって思ってるから……」
―――そんなことない。違うよ……。

 ああ、やっぱりわたしは、こんなときも口下手で。