【どうぶつの森】さくら珈琲
49.恋の始まりと終わりは
騒動から少しの時間が過ぎ、さくらは昼下がりに一人、皿を洗っていた。
そのとき、とまとたちと遊びに出かけていたはずのヴィスが、先に帰ってきたのだ。
いつものように「ただいま」も言わず、静かにドアを開けて。
いつもと違う空気に、自然と彼女の身も強張る。
「さくら、僕は」
少年は、顔を真っ赤にして、ゆっくりと言った。もう伝えても良いと思ったのだ。さくらが元気に立ち直ることができたから。
あの日に伝えることのなかった秘めた想いを、はっきりと伝えた。
さくらは思った。
いつの間に、こんなにヴィスの背は大きくなっていたのだろう。こんなに強い顔をするようになったのだろう。
まるで姉のような気持ちだった。
「ありがとう。」
さくらは微笑んだ。
他に言葉はいらない気がしたから、その一言に全てを詰め込んだつもりだった。
ヴィスは自分の中で整理が出来ていた。人によっては、実りのない恋だと思うかもしれない。お人よし、と言われるかもしれない。
それでもかまわないと思うくらい、この人を好きになれて良かったとヴィスは思った。
だから彼が見せた笑顔は、くったくのないものだった。どんな大物を釣り上げたときよりも、ずっと。
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗