【どうぶつの森】さくら珈琲
村の中央にはリクと、短くなった髪が少しだけ伸びたとまとが歩いていた。
リクは何度も家の方向を振り返りながら言う。
「ヴィスの奴、忘れ物に時間かかりすぎじゃねー?」
とまとは事情がわかっていた。だから、ヴィスが帰ってきてもあえて尋ねるようなことはしないつもりだった。この無神経なリクにもちゃんと釘を刺しとかないと、と思っていた。
「それにしても良かったぁ、さくらとみしらぬネコさん無事復縁!」
「人前で抱き合うとか熱烈だよなー! オレっちも……」
「や・り・ま・せ・ん!」
一文字一文字はっきりと声に出して、とまとは断るので、リクは「ちぇー」とすねて見せた。
リクがとまとを抱きしめてから、特にこれといって二人が触れ合うことはなかった。今までと変わらない関係だった。あの日のことを思い出すと、とまとはどこか恥ずかしい気持ちになる。
リクと、前より一緒に過ごす時間は増えたと思う。でも、それがどういう変化かわからない。
ふと、あの夜さくらの手を握っていたヴィスを思い出した。もう前ほど苦しくはならないけれど、やはり胸がちくりと痛む。でもそれは、いつか癒えることがわかっていた。
この、どうしようもないほどでバカで一途なリクに対する気持ちも、いずれわかる日がくるだろう。
とまとは黙って、手を差し出した。
「腹減ったのか? 悪いけど何も持ってねーぞ」
「……手くらいなら、つないであげてもいいけど?」
とまとは緊張が伝わらないよう、あえてそっけなく言った。
リクは「えっ」とも「ぐぇ」ともつかない変な声を出した。
いつもはふざけたことばかり言ってくるくせに、意外な反応だ、ととまとは思った。
ずっとリクがもじもじしているのでなんだかこっちが照れてしまって、「いやなら別にいいよ!」と手を引っ込めようとすると「つ、つなぐ!」と無駄に大きな声で叫んできた。
リクの大きな手はひどく汗ばんでていて、歩くのも急に遅くなる。とまとは笑いを堪えるのに必死だった。
(なーんだ、こいつもドキドキするんだ)
いつもペースを狂わせられるのは自分だけではないと知って、面白くなった。次は何して驚かせようかなと考えた。
リクは小さな声で「ヴィ、ヴィスの奴、おっそいなー……まあ、もうちょい遅くなってもいいけどな……」と呟いた。
とまとはそれを聞いて、くすくす笑いが止まらなくなった。
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗