【どうぶつの森】さくら珈琲
「あー! 気持ちよかったぁ!」
外に出ると、あれだけひどかった雨があがっていた。久々にまん丸の月が出ていて、それはいつもより大きく輝いて見える気がした。
とまとが歌い終わった後、まるで張り合うかのようにすぐにとたけけさんが歌いだした。
しかし、みしらぬネコさんがどこからかリコーダーを持ち出してきて、調子はずれな合いの手を入れるもんだから、おかしくってたまらなくなった。しかも「さくらも歌おうよ!」とわたしまで無理矢理ステージに立たされて真っ赤になってしまい、みんなにひどく笑われた。それを思い出すと、恥ずかしいやら、おかしいやら。今でも複雑な気持ちになる。
―――おどろいたよ。とまとって本当に歌が上手なんだね。
「そんなそんなぁ。さくらさんだって可愛かったですよ〜?」
―――……それは言わないで。
「えへへ〜。ねぇさくらさん! あたし、みんなと仲良くなれるかなぁ?」
―――うーん、どうだろうね?
「もうっ、いじわる! そういえばさくらさん、思ったんだけどぉ。」
そしてしばらく彼女はもったいぶって、うふふと笑う。
「さくらさんって、恋してるでしょ?」
―――え? こ、恋?
それはあまりにも突然で、返事を用意していないわたしは困惑してしまった。どうして急にそんなことを訊くのか、わけがわからない。
とまとはとっても楽しそうに、くすくす笑いをこらえきれずに続けた。
「ほら、あの青いネコさん! ずっといっしょにいたじゃないですかぁ」
そんな、ただ一緒にいるだけでそんなことを言われても。っていうか、そんなに一緒にいたっけ……いや、最近よく会ってるような気はするな……なんだか、彼をそんな風に意識すること自体恥ずかしくなって、強く否定してしまう。
―――別にみしらぬネコさんはそういうのじゃないから!
「またまたぁ! いいんですよぉ、ジャマしませんからぁ!」
ずいぶん嬉しそう。どんなに否定しても信じてくれない。だから、そんなんじゃないんだってば。
……確かに、時々ふと会いたくなる。もう少し長い時間、一緒にすごしてみたいとも思う。
でも、それだけだ。ほんとにそれだけ。そんなことで恋と呼べるの? そうだったら恋の定義はずいぶん簡単すぎない?
だから、わたしはますます否定した。その話題が終わっても、やっぱり否定し続けた。
ムキになりすぎ? やめて。本当にそんな風に思ってないんだから。
余談だけど、とまとの宣伝効果のせいか、ネビュラな服はほとんど完売したらしい。あのとたけけさんが買う姿を見た人がいるとかいないとか……ただ、わたしの知る限り、彼が服を着ているところはまだ一度も見たことがないけれど、ね。
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗