【どうぶつの森】さくら珈琲
16.ヴィス
特に用事はないけれど、早く目が覚めてしまった。時計を見ると、早朝五時半。
けれど夏の朝はこんな時間でも、とても明るい。しかも昼間のような暑さはないし、涼しくて過ごしやすい貴重な時間帯だ。
今日は一日の活動時間をいつもより長くとっても悪くないな、と思った。
とまとはまだぐっすり眠っている。どうせまた、昼過ぎまで起きないな。
わたしは、朝食にいつもは面倒くさがって作らないフレンチトーストを焼いて、いつもより時間をかけて作ったコーヒーを飲んだ。やっぱり、マスターのところには負けるなあ。今度おいしく作るコツを聞いてみようっと。
外に出ると、バニラと会った。
「あ、さくらさんおはようございます!」
―――おはようバニラ、ずいぶん早起きだね。
「花のお世話をしてるんです。きれいでしょう? 早起きは三ベルの得ですからね」
やっぱり、バニラには敵わない。毎朝この時間に起きるのはちょっと無理だ。だからバニラの花壇は、いつも村一番にきれいなんだろうなぁ。
「さくらさんはこれからどうするんですか?」
―――やることないし、お昼の魚でも釣りにいこうかな。
「それはいいですね、楽しんで! 釣り好きのロボさんはまだ寝てるみたいですから残念ですね」
そういえばピースとリリアンの件からロボと話していない。別に避けてるつもりはないんだけど、少し気まずさもあって。
昼頃なら起きてるかな、遊びにいこうか。
「そうそう、お昼から開催ですよ! 楽しみですね!」
バニラがとても楽しそうに言った。
―――何が?
「今日はホメる日ですよ! 今月の×ゲームはなんでしょうね?」
バニラは鼻歌を歌いながら去っていった。
しまった。忘れてた。
いつもは何週間も前から計画を練っていたのに、最近事件が多すぎて考える暇もなかったんだ。
この村では数ヶ月に一回、こういったわけのわからないイベントが開かれる。
村で会う人を「ホメる日」だ。
ホメ下手なヒトには×ゲームも準備されている。思ってもないことを口に出すのが苦手なわたしには最悪だ。
ちなみに前回の×ゲームは「ふきだし花火を10本持つ」という恐ろしくくだらないもので、受賞者はわたしだった。くだらないけどそれなりに、いやかなり怖かった。
更に前々回は「村中の仕事を全部引き受ける」で、これもわたしがやった。みんな普段は遠慮するくせに、こういうときはやたらこき使うものだ。
更に更にその前は「ぺりおさんをパチンコで打ち落とし噂の恋愛騒動を聞く」というやっぱりくだらないもので、更に更に更に……。
そう、この村に来てからほとんどの×ゲームはわたしが受けている。それだけホメ下手だからしょうがない。
決めた。
今日はもう家から一歩も出ない。朝のうちにたくさん魚を釣って、家で魚をさばいて、溜まっている本でも読んで、一日を過ごそう。
よし、そうしよう。決めた。
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗