【どうぶつの森】さくら珈琲
―――三歩、歩けば……5ベル拾う。
わたしが言うと、さっきとは打って変わって、歓迎するかのようにテントが開いた。
「お客さん、会員ですね! 入ってくださいよ!」
会員だと思われているようなので、今更イナリ家具って何? とは聞けない。
不安なわたしを置いて、とまととヴィスは怖気づくこともなく堂々と入っていった。
テントの中は見たことのない家具や、不思議な絵の数々。こういうの、絵画って言うんだっけ。フータさんが集めていた気がするな。
そして、店員はごくフツーのキツネだった。人のよさそうな細い目で、ニコニコ笑っている。しかし、青いエプロンの『ヤミ』という字が気になる。
「今日も掘り出しモンのオンパレードでっせー!」
とまとはピンクのハート模様のベッドに近づく。「かわいい」と呟きを言い終える前に、このキツネはまるで突進するイノシシのような勢いで近づいてきた。
「お、きゃ、く、さ〜ん! お目が高い!!」
キツネはこのベッドの良さを説明しだした。コレクターが喉から手が出るほど欲しいとか、上質の生地とか100人乗っても大丈夫とかそんな意味の言葉を次々とまくしたててきた。
とまともあっという間に言葉の波に乗せられて、お小遣いの入った財布を取り出した。
ああもう、無駄遣いはするなって日ごろから言ってるのに。
しかし、そのベッドの値段を聞いて目が飛び出た。
「まいどあり〜! 12,300ベルでーす!」
いくらなんでも、普通のベッドがこんな値段するわけない。
「ありゃ? 闇市では普通これの4倍はしまっせ?」
キツネは当たり前のように言う。
「闇市ぃ?」
とまとが訝しげに尋ねる。
「そっ! フツーのルートじゃ手に入らないモノをお安く提供する、誇り高きお仕事でっせ!」
「……詐欺じゃなくて?」
ヴィスが小さな声で問うと、不自然なくらいこのキツネは飛び上がった。
「何をいうんですかぁー、ぼっちゃん! んなわけないざんしょ……」
けれどヴィスは警戒を解かぬまま店の中をじろじろ眺めている。
わたしは、日ごろから博物館のフータさんが欲しがっていた絵画というものが気になった。
―――ねぇキツネさん、この絵はいくら?
「おぉ! その『よくみる名画』を目につけるなんて、お姉さんやりますなぁ!」
三人の人が話している絵だ。……『よくみる』?
「その名画はマニアがかぎまわってる中入手したもんですわぁ。ほんと幸運!」
―――よく見る、なのに?
わたしの質問は無視して、キツネは早くお金をもらおうと、いそいそと手を差し出した。
「3,980ベルでご提供いたします!」
―――あ、なんだ、もっと高いかと思った。そのぐらいなら買うよ。
ベッドが高すぎるから、絵画ももっとすごい値段すると思った。
財布を開けたわたしを見て、キツネは意地の悪い笑顔を浮かべたことに、わたしはそのときまだ、気づけなかった。
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗