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【どうぶつの森】さくら珈琲

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3.「ハトの巣」にて


 わたしは相変わらず週に何度か「ハトの巣」に通い、マスターのコーヒーを飲み続けている。
 それが全く変わらない、いつもの日常。しかしここ最近は、すこし事情が違ってきている。
 今日は店の中に入るなり、早速叫ばれた。

「さくら、髪型かえたんだー!!」

 最近は、いつも隣にみしらぬネコさんが座っていること。みしらぬネコだなんて変なあだ名だけれど、彼が頑なにその名前しか教えてくれないから、そう呼ばざるを得ない状況だ。
 あと、それから……わたしが久しぶりにヘアースタイルを変えたこと。これも最近の大きな変化かな。いつもは長い髪をポニーテールに結っていたのだけれど、思いきって肩につく長さまで切ってみた。だけれど、色はピンクのまま変えなかった。カットリーナさん曰く、「恋してるカラー」というやつ。
 別に、みしらぬネコさんにほめられたから、とかじゃないけれど……。ただなんとなく変えたくなかった、ほんと、それだけ。

「いいね。オレも髪きっちゃおうかな?」
―――あなたの場合、髪じゃなくて毛でしょ。
「ナイスツッコミ!」

 こんなばかげた会話をすることも、当たり前になってしまった。もちろん彼の連発する「かわいい」には慣れてないけど。そして時々、マスターもこのくだらないおしゃべりに興じる。だから本来は隠れ家的喫茶店だった「ハトの巣」が、いつもよりずっとにぎやかに感じていた。

「さっきこの村に来る前に、街へ寄ったんだけどさあ、すごかったよ! さくらは街に行ったことある?」
―――ないよ。この村、バス停も駅もないもん。
「そうなんだ。じゃあマスターは?」
「ワタシは、以前は都会で店をやっていましたが……。こっちの空気のほうがあっていますね。」

 へぇ、それは初耳だ。わたしが相づちを打っていると、みしらぬネコさんは唇をとがらせる。

「なんだよ、二人ともノリが悪いなー! もっと感動を共有してくれたっていいじゃんか!」

 と、すねながらも、街について聞いてもないのに語りだした。風船を配るおじさんや、靴磨きを仕事にしてるスカンクの青年や、大きなデパート……。
 こうやって自分が今まで訪れたいろいろな村や街の話をするくせに、みしらぬネコさんは自分の話をほとんどしなかった。そう、こんなに親しくしているというのに本当の名前すら教えてくれない。
 しかも、しつこく聞くと、テキトーに理由をはぐらかして帰ってしまう。もちろん明日にはまた来てるけどね。まったく、秘密主義の面倒くさいネコだ。
 でも彼はとっても話し上手で、気づけば名前への興味も薄れてしまった。この村の生活で満足していたけれど、たまには新鮮な話題も刺激的でいい。
 そんなみしらぬネコさんを交えての三人でのおしゃべりも楽しいだけど、マスターと二人でいる時間も好き。
 お互いみしらぬネコさんほどしゃべるのが上手じゃないから、空気で会話しているようなものだ。沈黙でも居心地が良い。彼が来るまで、わたしとマスターは何年もそういう付き合いをしていたんだ。

 あるとき、ここ最近では珍しく、みしらぬネコさんがいなかった日。
 のんびりコーヒーを飲みながらわたしは最近親しくなったバニラのことを話題にしようとした。
 すると、その日はマスターから口を開いたんだ。それもまた、珍しい。

「さくらさんは、みしらぬネコさんのことをどう思っていますか」

 なんだか、うまくつかめない質問だな。
 どう思っている?
 おもしろい人、だとは思う。赤くて大きな目が、相手によっては怖い印象を与えてしまうだろうけど、それを補えるほど明るく社交的なのもうらやましい。まさに、わたしとは正反対な人。
 最初はグイグイくるから苦手だったけれど、仲良くなればとても親切だ。だから、好きだしもっと仲良くなれるならそうしたいと思う。
……というようなことを、率直にマスターに伝えると、やわらかな微笑みがかえってきた。

「それはよかった」
――どうして、そんなこと訊くの?

 マスターのこのもったいぶった口調、どこかで聞いたことがある。
 あ、そうだ。彼がフータさんのことを話すときも、こんな感じだったな。

「いいえ、彼の秘密主義すぎるところを、気にしてはいないかなと思いましてね」
――まぁ、気にならないといったらウソだけどさ。でも楽しい人だからいいよ。
「さくらさんは相変わらずお優しいですね」
――……そんなことも、ないけど。でも誰にでも、言いたくないことってあるだろうしね。
「いつか本人が話せるときに、さくらさんが受け止めてください。きっとあなたなら大丈夫です」

 今日のマスターは、いつもよりずっとずっと、もったいぶるなぁ。まるであのネコそっくりだ。
 でもそのつもりだよ。わたしは、彼を大切な友だちだと思っているからね。だけれど、名前も言いたくないなんて変わってるなぁ。
 結局その話題は尻切れトンボに終わり、当分の間ぶり返されることはなかった。
 マスターが何を言いたかったかは、ずっとずっと後に分かることだった。