【どうぶつの森】さくら珈琲
4.手紙
『おしゃれなさくらちゃんへ
やっぱりさくらちゃんってセンス良いよね!
こんな服ほしかったんだ! ありがとう〜♪
次もキタイしちゃうかもー! なんちゃって。
今度いっしょにショッピング行こうよ!
ファッションリーダーなリリアンより☆』
『おろかなさくらよ
スパゲッティにりんごは合わねぇだろうが!
入れるならナシにしとけナシ!!
本場フランスっぽくなるぜ!
あれ、スパゲッティってフランスだっけ?
炎のシェフ ロボ』
『さくらちゃん
ニキビは青春のシンボル?
そんなの誰が決めたのかしら……。
それって背中のとかも入る?
言っとくけどあたしはないわよ!!
お手伝い、いつもありがと! レベッカ』
『さくらーーーーーーーーーーー!!!!!
お前の手紙汗だくだ! すまん許してくれ!!
プロテインって何に含まれているのかな??
おいらもうコーヒー飲みすぎてKO寸前!!
もちろんミルクたっぷりさ!
汗っかきなピースより』
『やさしいさくらさん
先日のお泊り会、とても楽しかったですね!
アレが出るなんて予想外でしたが……。
うぅ、思い出すだけで鳥肌が立ちます。
さくらさんの迅速な始末、かっこよかったです!
ほんとに助かりました! バニラより』
わたしは、手紙が好きだ。おしゃべりとは違う楽しさがあるし、自分が思ったこと、感じたことをゆっくり丁寧に表せるのもいい。口下手なわたしにはよく合っているコミュニケーションの方法だ。
村に来てからやりとりした手紙は引き出しが一つ、はちきれそうなくらい溜まっている。
そんなわたしが最近気になること。
ここ数日、ラッキーからの手紙が途絶えている。
―――ねぇ、ラッキーと最近会ってる?
ラッキーの近くに住んでいるイヌ仲間のバニラに聞いたけど、「そういえば見てないですね……」だそうだ。他の村の人も同じ答えだった。
でもラッキーはああ見えて案外アウトドア派。しょっちゅうどこかにお出かけするので、連絡が途絶えるなんて珍しくはない……けれどなんとなく、今回ばかりは気になった。
ちょっと遠いけど、お邪魔しに行くことにしようかな。ラッキーの家には何度か遊びに行ったことがあるから場所もわかるし。
そんな彼の家は、どこかくたびれているようにみえた。
―――ラッキー、いる?
返事はない。とりあえず鍵が開いているようなので、何度かノックをして、ドアを開けた。
見た目がかなりミイラっぽいラッキーの部屋は、かなりエジプト仕様だ。どこで集めたんだろうという模型や壁紙ばかりで、あまり生活感がなくて。本人はそんなインテリアをいたく気に入っているようだった。
そう、この前までは。そのときは、生活感はなかったけれど、ゴミ屋敷ではなかった。
こんな足の踏み場もないほど、物に溢れてなかった。まるで、物置みたいに。
……ここ、誰の部屋だっけ? とわたしは思わず一人で呟いていた。
どうしていいかわからないまま、途方に暮れて家の中をうろうろと動き回る。
どうしたの? どこかに行ったの?
そんなに広くない部屋で呼びかける声は、気づいたら不安な色を帯びていた。もしかして、引っ越した? だったら、どうして言ってくれなかったのだろう。
それとも、……あまり考えたくないのだけれど……ただでさえミイラみたいな姿だったのに、まさか……何かあったとか……。
そのときベッドあたりから、うめき声がした。
「ちがぁぅよぉ〜……」
いつもよりさらに呂律(ろれつ)が回っていないけれど、その声はラッキーだった。
「風邪ひいちゃってぇ、動けないのぉ……」
見るからに辛そうだけど、生きてはいた。ゴミに埋もれたベッドの中から細い腕を伸ばしているので、やっと見つけられた。
「さくらくぅーん?」
たくさんの物をかき分け、ラッキーに近づく。ほんと、どうしたらこんなに汚くなるんだか、逆に知りたいくらいだ。
「あれっ、さくらくん、泣いてるのぉ? ごめんねぇ、心配かけて……あと、出来れば助けてほしいんだけど……」
ゴミをまとめて捨て、隅々まで掃除をして。なんとかこの部屋はもとの清潔さを取り戻した。そのあとたぬきちさんのお店に寄って、薬を買った。風邪をひいても食欲はかわらないみたいで、作ったおかゆと取ってきたナシを食べさせたら、ラッキーはすぐに元気になった。もしかして、おなかがすいて具合が悪かったのかなって思うくらい。
「ふふ……死ぬかと思っちゃったぁ。えへへ」
物騒なことを言いながらのんきに笑う彼に、わたしはため息をつく。
―――ただの風邪でよかったよ。
「いやぁ〜、深夜アニメが見逃せなくてさぁ。毎晩夜ふかししてたら体調崩しちゃって、看病頼もうにも部屋が汚いから人も呼べなくて」
―――そりゃ自業自得だ。
またもう一つ大きなため息。
ラッキーは少し照れくさそうに笑うと、包帯から見える黄色い目を細めて言った。
「さくらくん、お母さんみたいだねぇ」
―――そう?
「うん、やさしいお母さん。きっとボクが一番、さくらくんがやさしいことを知ってるよ。」
わたしの方も照れてしまって、思わず目をそらしてしまう。
―――みんな知ってるかもよ。
「それでもボクが一番だよぉ。ねぇ、村はどんなかんじ?」
―――もう桜が散っちゃったな。若葉が芽吹いてるよ。だけどいつも通り、すぐに梅雨が来るだろうね。
「そっかぁ、早く見たいなぁ。」
むにゃむにゃとラッキーは呟いて、そのままゆっくりと眠りに入っていった。
さんざん世話かけといて、気楽なもんだなあ。
わたしは窓から手を伸ばし、近くの木から若葉をつんで、ベッドに寝ている彼の上にかけてあげた。
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗