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【どうぶつの森】さくら珈琲

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 それからヴィスは、夜遅くまで帰ってこなかった。

「ヴィスくん大丈夫かなぁ……」

 とまとが心配そうにぼやいている。
 その池は、確かわたしが初めてヴィスと出会った場所で、来月には釣り大会が開かれる予定だった。
 何年か前まで巨大な主がいるという噂があったが、本当に見たという人は誰もいない。せいぜいナマズか、良くてもライギョくらいだろう。
 ヴィスだって今までの釣り大会は、海で釣ってきた魚で優勝してきた。
 けれど、ヴィスの腕ならきっと奥の方に眠っている主だって釣ることができる、わたしはそう信じていた。
 夕方ごろになると、珍しくとまとが台所に立った。

「さくらさぁーん、台所使いますよぉ」
―――どうしたの?
「ヴィスくんに差し入れしようと思って。だいじょうぶ、邪魔しないようにすぐ帰りますぅ」

 そう言ってとまとは、髪を一つにまとめると、「あちちっ」と言いながら不器用におにぎりを握り始めた。
 わたしはそんな彼女を見て微笑んだ。
 恋をしてるせいなのか、この村の環境のおかげなのかはわからない。
 けれどとまとは前よりずっと大人っぽくなって、優しくなったと思う。
 わがままもあまり言わなくなった。料理も手伝わせてるからわりとできるようになってきたし。
 これで早起きが出来れば完璧なんだけどね、とまたお母さんになったような気分でわたしは思った。
 途中リクがつまみ食いして、また二人の喧嘩が始まってしまったんだけど。
 ほんと、もう少し成長してくれると完璧なんだけどね。


 帰ってきたとまとはすごく落ち込んでいた。
 どうしたのかと尋ねると、ヴィスは相当いら立っていたらしく、差し入れをしたとまとに「悪いけど邪魔しないで」と刺々しく言ったようだ。
 これにはリクが憤慨した。

「ヴィスを一発殴らせろー!」
「いいの。気にしてないから……」

 とまとはよわよわしく微笑むと、「きっとプレッシャーがすごいんだろうなぁ」とぽつり呟いた。
 わたしは気にしなくていいと、とまとの頭をそっとなでた。
 ヴィスは深夜に帰ってきたようだった。ようだ、と言うのは、わたしが朝起きたときには着替えだけ残していなくなっていたからだ。。
 わたしの部屋は一番玄関に近いので彼の行動が一通り把握できたが、まさに寝るためだけに家に帰っていると言った感じだった。
 そんな日々が続いた。ヴィスはほとんど、誰とも口を利かなかった。
 もはや気合だけで行動しているとしか言えなかった。なんていうか、常に張り詰めた気迫のようなものを感じた。
 そんなヴィスに対して、村のみんなは数日で諦めモードに入ってしまった。村一番の釣り名人のヴィスが釣れないものを、どうやって釣れというのか。もちろん、ヴィスの前ではそんなこと言うわけはないけれど、すっかり意気消沈しているのは一目でわかる。
 その分我が家は全力で彼を応援した。といっても出来ることがほとんどないので、せめて彼が帰るまでは起きている事にしたのだ。

「ただいま……」

 重々しい口調でわかった。今日も収穫はなかったのだ。
 
「……」

 三日目の夜、ヴィスはすぐには自分の部屋に向かわず、ただ黙ってリビングで座り込んでいた。
 それを見ているわたしたちもどうしていいかわからず、ひたすら同じように沈黙だった。
 
「ど、どんまい!」

 勇気あるリクが口を開いた。わたしたちもオウムが初めて覚えた言葉みたいに「どんまい」を繰り返した。
 ヴィスはぞっとするほど疲れた笑みを見せてきた。
 そして、また倒れるようにその場で眠った。このままではヴィスが壊れてしまうと、とまとが泣きそうな声で呟いて、わたしもなんだか泣きたくなった。