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【どうぶつの森】さくら珈琲

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「なぁ、とまと。どうして家に帰れないんだ?」

 リクは言った。とまとはうつむいていた。

「今更、無理だよぉ」
「なんでだよ!」
「あたし、家にいらないもん……それに、一回帰ったら、もう、戻れない」

 覗いているわたしとヴィスは顔を見合わせた。戻れない?

「戻れないって、どこに……」
「あたし、跡継ぎだから」
「あ、跡継ぎ?」
「あたしはパパの会社を継がないといけないの。知らない人と結婚したくないの。好きなように生きたいから」
「そんなのお前のわがままじゃん!」

 リクが声を荒げた。とまともキッとにらみつけた。

「わがままって何!? あたしのこと知らないくせに!」
「甘えてるだけだろ! 話し合えばいいじゃん! 親にそれ全部伝えればいいじゃん!」
「そんな簡単に言わないでよバカ! ほんとあんたってバカ!」

 二人が今にも取っ組み合いを始めそうな勢いだったので、わたしとヴィスは止めに入ろうとした。
 そのとき、家のドアがノックされる音を聞いた。ここはヴィスに任せて、わたしは玄関に向かう。どんなお客であれ、帰ってもらおうと思った。何しろ、今はタイミングが悪すぎる。
 すると、ドアを開けるとそこには見たことない人が立っていた。

「とまとを返して頂きたい」

 厳格な声が、そう告げた。
 わたしよりずっと背が高い、ニンゲンの男の人だ。高級そうなスーツを着て、目つきは鋭い初老の男性。わたしはその人をしばらく呆然と見ていた。
 そして、後ろからどたどたと走ってくる音が聞こえる。

「パパ!?」

 とまとが叫んだ。わたしたちも思わず「パパ!?」と言葉を繰り返す。あまりにも、とまとに似ていなくて驚いた。
とまとパパの鋭い瞳は怒りに燃えていた。

「とまと、こんな辺鄙な場所にいたのか、し、しかも男とだと……」

 ああ、違うんです。わたしたち全員そういう関係じゃなくて、いや、ほんとに。
 弁解したいのに緊張で口が上手く動かない。
 とまとは、いつもの明るさやマイペースなところが飛んでいってしまったみたいに、黙って震えながらうつむいていた。

「さぁ、帰るぞ」

 彼はとまとの腕を強く引いた。とまとは従順に「はい」とうなずいた。いつもだったら絶対、指図されるとああだこうだと文句を言うとまとが、素直すぎる。なんだか、らしくない。
 そして彼女は申し訳なさそうにこっちを向いた。

「荷物はあとで、なんとかしますからぁ……」
―――ちょっと、ま、待ってよとまと……。

 彼女は小さく「ありがとう」と言った。こんなの嫌だった。ずっと家族でいたのに、いきなりこんなお別れだなんて……。
 そこで叫んだのは、リクだった。

「言えよ! ちんちくりん!!」

 とまとがはじけたように振り返る。

「黙ってたってわかんないだろ! 言葉にしないとわかんないだろ! 言わないと伝わらないだろ!!」
「なんだね、君は」

 とまとパパは訝しげに尋ねた。確かに自分の娘をちんちくりん呼ばわりされたら良い気はしないだろう。
 にらまれても、リクは下がらなかった。

「とまとはあんたのオモチャじゃねえってんだ!」

 次の瞬間、リクは思いっきり殴られた。
 わたしは思わず悲鳴をあげた。リクは体が後ろに吹き飛ぶほど強く殴られ、彼の鼻からは血が噴出していた。
 ヴィスは慌ててティッシュを取りに行く。

―――ひ、ひどい!
「子どもでも言って良いことと悪いことがあるぞ! 娘をたぶらかしたのはお前か? とまとは、本当は従順で素直な子なんだ。なのに、急に家出なんかして……」
「そんな奴、とまとじゃねえよ!!」

 鼻を押さえながら、リクは訴え続ける。

「オレっちの知ってるとまとはなぁ、気が強くて、わがままで、生意気で、けど優しくってかわいくて……お前がそんなんだから、とまとも言いたいこと言えなかったんじゃねーか! 自分の娘くらい、ちゃんと見ろってんだ!」

 とまとパパが再び動いた。そのとき、とまとが叫ぶ。

「もういい、やめて!!」

 とまとはしゃくりあげながら、とまとパパを見つめた。
 真っ赤に泣き腫らした眼は真剣だった。

「パパ、あたし、この村で暮らしたいの」
「何を言ってるんだ、とまと……」
「ずっとわかってくれないって思ってて、言えなかったけど、あたし自分の好きなように生きたい。
 自分のやりたいこと見つけて、好きな人と結婚したい。
 ちゃんとこれから帰るようにする、手紙も書く。だからお願い、お願いします!!」

 深々と頭を下げる娘の姿に、かなり戸惑っているみたいだった。
 そんな彼に、戻ってきたヴィスは言った。

「……一度、ゆっくり話し合ってみてはどうでしょうか」

 とまとパパはもう一度とまとの腕をつかんだ。とまとは、今度は抵抗しなかった。
 そして、笑顔でこちらを振り返って言ったのだった。

「なるべく早く帰ってくるようにしますねぇ」

 いつもの、おちゃめなとまとだった。
 その約束は無事、果たされた。
 とまとは一週間ほどするとまたこの家に戻ってきてくれたんだ。
 あれからパパとたくさん「話し合い」をしたらしい。初めて大喧嘩をしたとか、「お父さん大きらい!」と言ったとか。結局とまとママの仲裁で解決したみたいだけど。
 毎週手紙を出すことと、月に一回は実家に帰るのを条件で、とまとはこの村で暮らし続けることを許された。

「いろいろあったけど、向き合えてよかったですぅ」
 
 何事もなかったようにとまとは笑っていたけれど、その泣きはらした目は、たくさん悩んでぶつかったことを教えてくれた。
 わたしはそんな彼女の頭をくしゃくしゃと撫でた。とまとはヘアースタイルが崩れると怒った。
 とまとが無事帰ってきたおかげで、今までふさぎ込んでいたリクは一気に上機嫌になった。

「ますますオレっちたちの愛が深まったな!!」
「そんなわけないでしょぉ!!」

 けれど、とまとはあとでこっそり、わたしにだけ耳打ちをした。

「さくらさんもヴィスくんも、それにあのリクの言葉も、すごくうれしかったんですぅ。少しはあいつのこと、見直しましたぁ」
 
 絶対ナイショですよ、と小さな声で付け加えて。
 わたしはリクの方を見ながら、心の中で呟いた。
 よかったね、リク。