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【どうぶつの森】さくら珈琲

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30.クリスマス


 みしらぬネコさんに誘われたのは、12月の半ばのことだった。
 言うまでもなくいつもの喫茶店「ハトの巣」にて。その日は、心なしか彼がもじもじしていたような気がする。

「さくら、あのさ」

 珍しく、もったいぶった口調。
 わたしは首をかしげた。

「クリスマス、空いてたりするかな?」

 ああ、そういうことか。
 思わず自分の顔がにやけてしまうのを抑えながら、あえてそっけなくわたしは答えた。

―――ヒマ、だけど?

 すると、彼の表情が子どもみたいにぱっと明るくなる。あーあ、そんな可愛い顔しちゃってさ。

「やった!」

 マスターの方を見ると、黙々とコップを磨きながらもにやにやしていた。なんだか恥ずかしくなって、わたしは全然気にしてないふりをするのに精いっぱいだった。
 思えば今まで男の人(人……というか、彼はネコだけど)とクリスマスを過ごしたことなんてなかった。
 クリスマスの期間は村中がうきうきして、それぞれの家でイルミネーションを競って飾る。おかげで村はどこもにぎやかだった。
 いつも彼と過ごしているのに、当日が近づくにつれてわたしは緊張してきた。クリスマスを二人で過ごす、それがどういう意味かくらい、わたしだってわかってる。
 とまとはもちろんヴィスと過ごしたがったけど、やっぱりリクが邪魔してきた。しかも、たぬきちさんは「ぜひサンタ姿のとまとちゃんをクリスマスセールの宣伝に使いたいだも!」と頼み込んでくるからもうてんやわんやみたいだった。
 それでもクリスマス当日、とまとはわたしの髪をいじってくれた。というか、コーディネートがしたいと彼女の方から言いだしてきたのだった。

―――いやほんと、いつもどおりでいいよ。

 なんだか、自分の髪がいろんな方向に引っ張られたり結われたりして、どういう状況になってるのかわからず不安になってきた。

「今日はクリスマスですよぉ!? 今日おしゃれしなくていつするんですかぁ!」

 なんだか、とまとが怖いくらい燃えている。
 ヴィスはシーラカンスを釣りに、朝から海に出かけているらしい。午前はリクとデート、午後はたぬきちさんのバイト、そして夜はヴィスくんとデートするということでスケジュールが決まったけど、「本当は朝からヴィスくんと過ごしたかったぁ」とわたしの髪をいじりながら彼女は愚痴った。
 そんな話をしているうちに、わたしの改造が終わったらしい。
 勇気を出して鏡を見ると、知らない自分がいるみたいだった。もちろん、良い意味で。もっと舞踏会にお呼ばれされたみたいにヘンテコにされたらどうしようかと思っちゃったけど、そこはとまともうまくやってくれたみたい。髪も化粧も控えめだけど、細部に凝っている。さすがエイブルシスターズに通ってきぬよちゃんと語ってるだけあるな、とひそかに彼女に感心した。

「我ながらうまくできましたぁ! じゃあ、いってらっしゃい! 楽しんできてくださいねぇ」

 そんな感じで、クリスマスは始まった。
 さっきまで案外悪くないなと思っていたけれど、いざ外に出るとなんだか、やっぱり恥ずかしい。
 なんだか、こんなおしゃれしてると……すごい張り切ってるみたいじゃん。いつもは普段着でしゃべってるのにさ。
 まるで、恋人みたいで気恥ずかしい。いや、恋人なのだけれど。
 正直言って、まだみしらぬネコさんのことをそう呼ぶのには抵抗がある。
 多分、両思いなんだろうけど……それに、今もこうしてプライベートで過ごすわけだけど。
 実は、わたしは今まで恋人なんていたことがないから、どういう距離感で過ごしていいのかよくわからないんだよね。

「さくら!?」

 待ち合わせは、もちろん博物館前。
 わたしを見つけた彼は駆け寄ってきた。彼も、いつもよりおしゃれをしていた。あーよかった。ちょっとほっとした。そしてなんだか余計、これってちゃんとしたデートなんだなって思って、恥ずかしくなった。
 本当に、恋人なんだ、わたしたち。

―――へ、変かな? とまとがやってくれたんだけど……。

 変だって言われたら、どうしよう。わたしの緊張はピークに達した。
 でも、わたしの不安をよそに、みしらぬネコさんはくったくのない笑顔でこう言ってくれた。

「ううん、すっごいかわいい!」

 最初に会ったときも、彼はわたしにこう言った。
 あのときも、実は照れていた。というか戸惑っていた。だって、全然言われ慣れてない言葉だったから。嘘ついてるんじゃないか、お世辞なんじゃないかって、そのことばかり気になっちゃって。
 けれど今は、きっと本心で言ってくれてるんだって。だからあのときよりずっとずっと、嬉しくて、恥ずかしい。

「あのさぁ、さくらに言わないといけないことがあってさ」
―――何?
「オレ、一緒にいたいって思ってたけどさ、この村って案外というか、予想通りというか……なんにもないんだよね」

 みしらぬネコさんは申し訳なさそうに、「彼氏失格?」と言った。
 確かに、この特に観光スポットという場所がない田舎村では、デートと言ってもできることが限られている。まさか、たぬきデパートに行くっていうのもなぁ……。

―――じゃあ、こういうのはどうかな?

 わたしは足元に深く積もってる雪をかき集めた。

―――とうっ。
「冷たいっ!? やったなー!!」

 そんなこんなで、いきなり雪合戦が始まった。クリスマスの日にこんなこと全然似合わないんだけど、やってみると結構楽しい。

「ちょっとさくらー! これいつもと変わらないじゃーん!」
 
 そう叫ぶ彼の顔に雪玉が見事命中。50点。

「本気で怒ったぞー!!」

 と追いかけてきた。わたしは、小さい子みたいにきゃーきゃー騒いで逃げた。


 あー、幸せだ。
 ずっと、こんな時間が続けばいいのにね。