【どうぶつの森】さくら珈琲
大粒のぼたん雪が降ってきた頃、息を切らしたわたしたちは雪の上に寝転がっていた。
たくさん走り回って火照った体に、ひんやりとした雪が気持ちいい。
「はー、全然雰囲気でないね、オレたち」
―――まあ、そっちの方がらしくていいじゃん?
「楽しいからいいか! あははは!」
わたしたちは、しばらく曇った空を見つめていた。
途中、どちらからかともなく、手をつなぎながら。
「さくらは、」
―――ん?
「……オレのこと、好き?」
えっ、いきなり何を聞くんだ。
わたしは思わず、がばっと起き上がる。
―――え、好きって、いや、好きっていうか、みしらぬネコさんのこと、好きじゃなかったら、こんな……。
思わずしどろもどろになるわたしを、彼は笑い飛ばす。
「あははは! ごめんごめん、どんな反応するかなって」
そして起き上がると、わたしの赤くなった頬にそっと触れて微笑んだ。
「オレもさ、さくらのこと好きだよ」
彼の赤い瞳にわたしが映る。
彼はいつも、わたしを爆発させようとする。わたしも、彼をこんな気持ちにさせられたらいいなって思うんだ。いつも、わたしばかりだ。せめて、この愛しさを少しでも伝えられたらいいのに。
「じゃ、はい」
みしらぬネコさんが差し出してきたのは、小さな包みだった。
いきなりのことなので、わたしは思わず彼を見つめた。
「クリスマスといったらプレゼントでしょー!」
開けると、中にはガラスで出来た天使が入っていた。精巧な造りの透明な天使の像は、白い雪に反射してクリスタルのように輝いていた。
選んでくれたんだ。みしらぬネコさんが、わたしのために、プレゼントを。わたしのために、……。
―――あー!!
「ど、どうしたの?」
―――ごめん、プレゼント……忘れてた。彼女失格だ。
そうか、そうか!! 普通、クリスマスはプレゼントを交換するものなんだよね。どうして気づかなかったんだろう。自分の経験のなさが心底恥ずかしくなった。
ちょっと考えてみればわかることなのに……。
でもみしらぬネコさんは全然気にしていない様子だった。
「誘ったのオレだからいいのいいの! こうしてるだけで、十分だしね」
ほんと、良い恋人を持ててよかった。
もう、彼がいない日々なんて考えられなかった。かけがえのない、とても大切な存在になっていた。
―――これ、ありがとう。大事にするね。
「こちらこそ、一緒に過ごしてくれてありがとう。じゃあ、マスターのところで一休みしようか」
―――いいね。
だからわたしはそのとき、
彼がいなくなることなんて、考えられなくて、
この関係が終わってしまう可能性なんて、浮かびもしなくて。
ぴたりと、彼の動きが止まった。
―――どうしたの、早く行こうよ。
しかし彼は、わたしを見ないで、言った。
「サクラ……?」
その視線の先は、わたしじゃなくて。
向こうに立っている、女の子に。
「どうして……」
あの、わたしと同じピンク色の髪をした、ニンゲンの女の子に。
「どうして、サクラが、ここに……」
わたしと同じ名前の、彼の初恋の人は言った。
「あなたを、探してたの。」
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗