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玄塊群島連続殺人 黎明編

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彼は、俗世に対して、自らの居場所も生きる目的も見いださなかった。
それでも、なおこの世に留まり続け、生き恥を晒す男の姿は、人の性が産み出した亡霊のようであった。

彼は幼少の頃より、美禰子の世話役を言い遣っていたが、その素性は主人である美禰子自身も把握する所ではなかった。徹底した秘密主義と、周囲の無関心が、その不自然な情況を可能にしていた。
誰もが、彼の異様な風貌を見た瞬間、その印象を一刻も早く記憶から消し去りたいという欲求に囚われるのだ。まるで、在るべきではないものを見てしまったかのように。
亡霊は、嶋田庸一という。美禰子の知っている彼の偽名の一つだ。

連なる灯火が、民宿の温かな光を指し示した時、二人の少女は安堵の念を感じつつ、前面に広がる庭園に踏み入った。中程を過ぎた所で、背後で蠢いた気配に振り向く。
そこには、闇のなかで踞る者がいた。刹那、美禰子の背に冷気が走る。
しかし、明かりに照らされた横顔はよく見知ったものだった。
「嶋田、こんな所で何をしているのだ。」
彼は、苦々しげに呼び掛ける少女にその爬虫類のような眼を向ける。
「お久し振りです。美禰子さん。その調子では、御加減の方もよろしいようですね。」
彼の耳は、遠い。
「お前はもう、お祖父様の直参の身。私のお守りは、お役御免のはずだぞ。」
美禰子は、未だに立ち上がろうとしない彼の元に歩み寄り、怒鳴る。
「…今回の安眞木の件、災難で御座いましたな。しかし、お嬢様にはむしろ幸いと言えましょう。こうして、私が付き添い人の代役に指名されたのですから。もう安心していいのですよ。」
なぜ、祖父はこのような不実な男を私に寄越したのだろう。
彼女の心は安心からはむしろ遠退いた。彼の存在自体が一つの不安要因である。例えば、彼が、窮地に陥った場合、自分が助かる為ならば、喜んで無二の親友を犠牲にする類の人間だ。
現に、自らの育て親である祖父をも歯牙に掛けんとしている。
彼が身に纏う多くの謎は、この救いがたい卑劣さに起因するのかもしれない。

嶋田庸一は、祖父や一族の目の届かない場所に、放たれた一匹の獣だ。その事実に、美禰子は精神の危機を感じていた。

「ああ…、これはとてつもなく笑えない冗談ね。お祖父さん…。」