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リスティア異聞録4.1章 ユーミルはその昏い道を選んだ

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一方、訓練場にとり残されたユーミルは未だに、うーんうーんと頭を抱えていた。

「大剣を持つということの意味……? 何に使うべきか……? 騎士の役目……?」

やたらに重たい鉄の塊を脇に立てかけて空を見ながら考える。雲は薄くて少ないけれども日にかかっていた。高地に有るこの土地では風が吹けば寒いけれども日が照っていれば暑い。日が上手く隠れてくれたことを嬉しく思う。

「騎士とは何か?」
「騎士が守るべきモノとは?」
「父は何故、大剣を与えたのか?」

いまひとつ考えるとっかかりが得られぬまま、父の出した武骨な謎かけばかりが頭を巡る。ユーミルは「自分の頭の中で考えるきっかけが見付からないのならば誰かと話ながら見付ければ良い」と考えてしまう子供であった。実に迷惑な子供である。いつも、そういうことがあると真っ先に相談しに行くのは厩の厩務員のお爺である。学は無いけれどもなんでも知っている。屋敷の知恵袋だ。ユーミルはいつも頼りにしていた。そして迷惑ばかりかけていた。

「お爺、ちょっと聞きたいことが有るッ!!」

ユーミルはいつもそうしているように厩の柱をノックしながらお爺を呼ぶ。ノックする扉の無い入口でもノックしたいのがユーミルという少年の愚直さであろうか。

「おや、ユーミルぼっちゃま、お早うございます。また、お館様の謎かけですかな?」

好好爺とは、こういう爺さんのことを言うのであろう。丈夫なツナギを着て薄くなった金髪を撫でつけた笑顔の素敵な爺さん。丁度、朝食後のお茶を楽しんでいたところであった。その草と獣の臭いが染み込んだ武骨な手で、茶器を脇の棚へ置く。そして一呼吸置いて「話を聞く姿勢が出来ましたよ」とばかりに立ち上がる。ユーミルはその姿勢を確認すると質問を続けた。

「騎士って何をする人なのだろう?」

お爺は、本当に考えているのか考えていないのかは分からないが、うーんうーんと唸って「考えている」という様子を見せながら、こう続けた。

「守ること…… じゃないですかね? それこそ、このクソ爺ではなくお館様に聞いた方が、よろしいのでは?」

お爺は少しおどけた顔をしながら、それでも「真摯な姿勢は崩しませんよ」というように、目線の高さを合わせたまま答える。とは言え、ユーミルからすれば当主からの出題なので、当主に直接聞く訳にはいかないのだ。しかし、自分で考えろと言われているにも関らず、お爺に相談してしまっている時点でズルをしていることには変わりないのだけれども。そこにはユーミルなりのルールが有るようだ。

「そうなんだけれども、父上に聞く訳にはいかないのだ。ところで守るって何を?」

「うーん、なんでしょうかねぇ……… 民を?」

とは言え、この程度のことはそもそも自分の中に自覚が有ったことである。これを元に考えていても先に進めなかったから困っているのだ。

「そうなんだよね、それなんだけれども…… えっと、多分、その答えじゃ不十分なんだ…… 守る…… 守る…… えっと仲間も?」

「おお、それですよ、きっと、さすがぼっちゃま!」

お爺の言うことではいつも不十分で謎かけの回答にはならないのだけれど、ユーミルからすれば会話の中で勝手に思慮を膨らませるための壁変わりとし使ってしまっている。ユーミルが聞きにくることは大体知識ではどうにもならない類の話なのでこうなってしまう。お爺からすれば、さぞ面倒臭いはずなのだが、そんなことは露とも見せずにおだててみせる。

「いや、違う…… 自分も……なんだ。そう、民を守るために、民を守る仲間を守る、民を守る仲間を守るために、仲間を守る自分を守る。これだッ! ありがとうお爺、また聞きにくるよ!」

そういうとユーミルは勝手に納得してどこかへ行ってしまった。

「まったく忙しい…… ぼっちゃんだなぁ……」

お爺はそういうと脇の棚から先程のお茶を取り出し、草と獣の臭いの染みついた手で冷めたお茶を口に運ぶ。一口味わうと胸ポケットからパイプを取り出し、浅めに咥え、火をつける。立ち登る煙と共に空を見上げる。空が、雲ひとつ無い空が、ユニオン首都の方面に昇っている太陽が、眩しかった。

ユーミルは部屋に戻りベッドに寝転がって考えていた。

騎士とは守る者である……
なぜ大剣なのか……?
鉄の塊……?
盾?

なるほど父上の言わんとすることが分かってきた。すぐに考えたことを紙に書き留めた。ユーミルは思いついたことが有ると、すぐに書き留めるクセがある。しかし、いわゆるメモ魔とは違って、漠然と描いたイメージを言語化して無駄を削り落とし、コンパクトにまとめたいのである。こうすることによって記憶の定着率も高く、相手にも説明し易い。幼い頃から実践している習慣なのだ。他の家族に比べて貴重な紙の消費量が多いのが難点ではあるが……