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灼熱に咲く華~光輝なる翡翠

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灼熱に抱かれた王国も日が沈み、夜が訪れると途端に大地は冷えゆく。
ここ天上の神を祀る大神殿にも冷たい風が吹き抜けてゆく。

神官たちを清める聖池――そこに咲き乱れる赤い花は王の花、ロータス(睡蓮)である。水に生い茂る葉の中に息づく。
何枚もの花弁が重なり、広がっている。

聖池の傍に腰を下ろしロータスに触れる青年がいた。
艶やかな黒髪は宵闇と同じであり、彼の白磁の肌を彩る。
宝石のアメジストとも見紛うほどの紫の瞳は憂いに満ちていた。
俯く青年の横顔を松明の光が赤く照らす。

「スザク……」

王の名を呼ぶ。
その声は吹き抜ける風にかき消され、消えてゆく。
翡翠の王が戦いに赴き、すでに一月近く。
未だ膠着状態だという。
和平条約を結んでいた筈の隣国が再び国境に向け、軍を動かし始めたとの一報が入ったのは一月以上前のことである。
それを聞いた翡翠の王の動きは早かった。
すぐに軍を率い、国境へと向かったのだ。

和平が結ばれたここ数年は互いに手を取り合い、友好国として関係を結んできた。
――だが、それが表面上であることも星の祈りであるルルーシュは分かっていた。
水面下で密かに進められてきた争いの兆し。それが急激に表面化したのはここ一年のことである。
全面戦争へと発展するほどの勢いが常に二国間を覆っている今、
現王の生誕祭を控えていながら王都は今までにないほど緊張に包まれていた。

「――どうか、無事で……」

星の瞬く漆黒の空の下でルルーシュはひたすら祈り続けていた。
ふと風が揺らいだことに顔を上げた時だった。
対岸に見えたのは翡翠の輝き。
ルルーシュは目を瞠った。

彼がここにいるはずがないと何度心が唱えても、彼の姿は消えない。

「スザ、ク……?」

呆けたように呟いたルルーシュの元に届いたのは確かな声と柔らかな微笑み――。
その笑顔に泣きたくなった。
よほど急いで馬を走らせたのだろう。
肩が上下に弾むほど息が乱れている。

日に焼けた精悍な横顔から汗が流れ落ちたのが見えた。
彼が何かを発する前にルルーシュは駈け出していた。
ここは神を祀る神殿である。
走るなど以ての外だ。何より己は星の祈り。

神殿が掲げる規律を破るなどあってはならぬことである。
――だが、はやる心を止められなかった。
広い胸に飛び込む。

懐かしいぬくもりに涙が込み上げてくる。
背中に腕を回せば、力強い腕がしっかりと抱き締めてくれる。
このぬくもりをどれほど待ちわびてきたことか。

焦がれてやまない人がいま、ここにいる。

力強い翡翠の眼差しが見たくて顔を上げれば、すぐに視線が絡まる。
彼の眼差しに射抜かれる。

澄んだ翡翠の輝きに身体が震える。
気付けば引き寄せられるように口づけを交わしていた。
濃厚なものではない。
無事を確かめ合うための触れるだけの口付け。
それでもルルーシュの胸を満たしたのは震えるほどの歓喜だった。
感極まった為か、ルルーシュの瞳から涙がこぼれ落ちた。

「――ルルーシュ、泣いているの?」

覗きこまれ大きな掌が頬を伝う雫を拭ってゆく。
目尻に口付けられ、ルルーシュは身体を大きく揺らした。

「んッ……、あッ、……ずっと、心配だったから――」

そう告げるだけで頬が熱を帯びてゆくのが分かった。
逸らされることのない眼差しから逃れるように俯けば
触れるだけの口づけが幾度も下りてくる。

「うれしいよ、ありがとう」

羽のように触れてくる感触が擽ったくて身を捩れば腰に回った腕がルルーシュの細い肢体をさらに閉じ込める。
ピタリと寄せた肌から直に伝わる熱い鼓動。

それが心地よくて目を閉じたときだった。
首筋を掠めた吐息に目を見開く。
何?と問いかける前に熱く濡れた感触と共に小さな痛みが走り、ルルーシュの身体が大きく跳ねた。

「ッあ!……やッ、な、に?」

見上げた先にあった翡翠は真剣な光を宿していた。
手を取られ、その上に唇が触れてくる。
その温もりだけで、身体が大きく震え揺らいでしまう。

「ずっと、君に逢いたかった……」

手を離し、遠のこうとする王の手に手を伸ばすと逆にその手に頬を押しつける。
自分とは違い、固く大きな掌。
この手が人々を護るために血に濡れている。そして、己のために罪を背負わせてしまった。
それが苦しくて――。

「――俺だって、ずっと……」

見つめ合う瞳が互いに濡れていた。
――だからと続いた言葉にルルーシュは戸惑いを隠せなかった。

「――今すぐにでも、ルルーシュを抱きたい」

背筋を撫で、耳元で囁く。
それだけで、ルルーシュの身体は熱を帯び始め、甘い声を上げる。

求めているのはルルーシュも同じだった。
それでも頑なに首を振り、拒む。
ここは神を祀る神聖な場所。
だからこそ、天上の神に仕えるルルーシュは頷く訳にはいかなかった。

「ッ……、駄目だ、スザク。――ここは、神殿だ。そんな行為は……」

神殿の規律を述べ始めたルルーシュの言葉がふと途切れる。
続く声は熱い唇に封じられていた。
するりと熱を帯びた舌が入り込んでくる。
その感触に背筋がぞくぞくとした快感が走り抜ける。
ルルーシュはきつく目を閉じた。
これ以上にないほど、心も体も彼を求めている。

――このまま触れあっていれば確実にこの身を任せてしまう。

駄目だと己を叱咤し、逃れようと身体を捩る。

「んッ…、はッ……、スザ、離し……」

強く抱きこむ胸板を押し返すが、逆に首元と背中に回った腕が許してくれない。
その間も与えられる熱に身体から力が抜けてゆく。
ようやく解放された時にはルルーシュの身体は熱に浮かされていた。

「――ルルーシュ、僕を求めて」

常より幾分も低い情欲を含んだ声。
耳元を這う舌に思考が霞んでゆく。

「あッ、……で、も……」

もはや翡翠の王に捕らわれてしまった今、どんなに拒もうとも逃れられないのは分かっている。
――いや、求めているのは己の方だ。

「――でも」

それでも頷くことが出来ない。
そんな己が心底恨めしい。

「大丈夫だから――。今、この神殿には君以外誰もいないから」

「え……?」

たった今、耳を打った言葉が信じられなくて、ルルーシュは目を見開いた。
驚き固まるルルーシュを翡翠の瞳が優しく見つめる。

「月の守りからのお達しだそうだ。この度の戦いは大いなる穢れに満ちている、と。
大神殿を護るもの達は即刻王宮に向い、王都に帰還した兵士たちを清めよ。とね」

「CCが……?」

「だからこの神殿にいるのは、君と僕だけ」

翡翠の瞳を細め、王宮がある方向を見つめ囁く。
そして、ゆっくりと頬を撫でられ唇を塞がれる。

――けれど。

今度こそ、ルルーシュは抗わなかった。
絡み合う二人の姿を王の花だけが静かに見つめていた。