世界を統べる者
「じゃあ、行くぜ。今から、この空間と統合してしまったお前の輪廻を断ち切る。――わりいけど、空間の維持はたのむぞ」
前半は騎士に向け、後半は黙ったまま自分たちのやりとりを聞いていた番人に対してだ。
「そんなこと、言われなくとも分かっている」
むっすりとした声が返ってくる。不機嫌が滲みでている。反射的に顔が引き攣るが、持前の忍耐力で凌ぐ。
(無視だ無視! あいつの性格の悪さは今に始まったことじゃない! 揺らぐな、俺!)
「――貴様、今ものすごく失礼なことを考えているだろう?」
間髪いれずにそう返してくる番人。せっかくの我慢が台無しである。
「~~~うるせえよ! 気が散る!」
(あの魔女にしろ、こいつにしろ、何だって人の思考を読みやがるんだ!)
内心で悪態をつきつつも、騎士に向けた鎌は決して揺るがない。それが死を司るスザクのプライドでもある。
「目、閉じてろ。――安心しろ、っていうのも変だが、痛みはない。行く先はおそらくあの皇帝と同じだろう」
その言葉に騎士は驚いてように目を見開く。そして、ふわりと笑った。ありがとうとそう囁くように。彼は何も言わなかった。けれど、確かに感謝の声がスザクの元には届いていた。
(たく、同じ顔ってのはどんだけやっかいなんだよ)
未練を残したものたちがその想いを昇華させる瞬間に立ち会うことが多いが――歪みの原因のほとんどはこの後悔がもっとも多い。――それが満たされた瞬間の人は皆、同じ顔をする。そう――目の前にいる騎士のように皆一様に微笑むのだ。幸せだといわんばかりに。
騎士の足元に向け、鎌を振り下ろす。地面に触れた切っ先は音を立てることもなく地面に吸い込まれる。そして、聞こえてきたのはガラスが割れる小さな音。その瞬間、歪みの原因としてこの世界の時を圧迫していた空間が消滅したのだった。