契約の代償〈第二章めぐりあい輪廻 P31ガブリエル回想UP〉
その薄暗い小さな小屋に人生の晩秋になりかかった老人は暮らしていた。
最近では、めっきり足の調子がよくなかった。そういえば、体もずいぶんガタがきているなと、思った。
鍛冶屋をして貯めたお金を切り崩しながら、老人はひっそりと森の近くで生きていた。人は好きだが、そんなに関わろうとしなかった。
「老人になると人を避けるようになるのはわかるなぁ。」自分の独白に少し笑った。まぶしいものが目にしみるのだ。
そろそろ、裏の井戸に水を汲みに行こうと桶を持ち、外へ行こうとしたときだった。普段自分以外開かれないはずの扉が勢いよく開いた。
驚いて、老人はそちらのほうを見た。
「ガウリイ!・・・ガウリイ!!」
外の光の中には・・・
老人が夢にまで見た愛する少女の姿があった。
そう、あの時別れたときのままの姿で。
「リナ・・・」驚いた老人のごつごつした手からその桶が滑り落ちた。
「ガウリイ!!やっと見つけた!!」
そのまま亜麻色の髪の少女は掛けていって老人の胸に縋りついて、大声を上げて子供のように泣きじゃくった。
「リナ・・・リナ!」老人は抱きついてきた少女を夢中になって、抱き返していた。熱い思いがこみ上げてくるのを感じた。
「愛してる!愛してるわ!ガウリイ!!」
「あんたを探して、もう50年の月日が経ったわ!!でも、天はあたしを見放しちゃいなかった!!」
泣きじゃくる少女の頭に、背の高い老人はキスを落とた。やわらかい髪が自分の鼻をくすぐり、その髪を優しく撫でた。少しだけ老人は目を閉じ、昔に思いを馳せた。
「リナ・・・。とうとう見つかっちまったな。こんなに隠れて生きていたのに。俺の計画は台無しだ。」
昔の面影があるが、目元がくぼんだしわがある笑顔が返ってきた。
「ガウリイ・・・。シルフィールと幸せに暮らしてると思ってたけど、違ってた!あんたは、ずっとひとりっきりだったんだ!」
「そして、あたしを愛してた!」
そう、少女はわかっていた。少女は恋人の魂を愛しているのだ。
「リナ・・・。そうだ。俺はお前さんを愛している。でもな・・・リナ。お前さんには、待っているやつがいるだろう?」
「何言ってるの!?」
「ゼロスが待ってるんだろう?」それは優しい声音だった。
老人の声からは、嫉妬の思いなどなく、ただただ慈愛に満ちていた。
少女はその言葉に、少し体をびくん!とさせるも、ふるふると首を振った。
「リナ。俺はお前とは生きていく資格がないんだよ。なあ、俺はあと、ほんの数年で死んでいく儚い身だ。」
そして、老人は少女をまぶしそうに見つめた。
「今やお前さんはどうだ?あの時の声のまま、あの時の姿で俺を抱きしめてくれる。今の老人の俺には、お前さんを抱く力なんてありはしない。あるのは、お前さんの幸せを思う真実の心だ。」
「お前さんはここに留まっちゃいけないんだよ。お前さんには自由がよく似合う。」
少女はその答えに涙した。「ありがとう・・・あたしの幸せを思ってくれて・・・。」
作品名:契約の代償〈第二章めぐりあい輪廻 P31ガブリエル回想UP〉 作家名:ワルス虎