契約の代償〈第二章めぐりあい輪廻 P31ガブリエル回想UP〉
神前試合の後勝者は、神の御前で女性神官から大きな金の杯を渡され神酒を飲み干す。
その後馬の引く戦車に乗り込み、セイルーンの凱旋パレードへ行く。
毎年、そういう慣わしになっていた。
王子であるゼルガディスも慣わしにのっとって、粛々と儀式を推し進めるはずだった。
闘技場を取り囲む民衆たちの目の前で、高位の女性の神官から金の杯を渡され、その杯いっぱいに並々と神酒が注がれる。
ゼルガディスはその神酒を見た。
中には金粉が入っていて、その水面には自分の顔を映し出している。
(自分はそんなに酒が強いわけでもないが。)と、思ったが、昔から勝者は、酒も強いと言われるのは迷信だ。
しかし、彼はそれを一気に観衆の前で飲み干した。
一滴も残らず、神酒を飲み干すと、金の杯を頭上に掲げた。
その瞬間闘技場は歓声に包まれた。
その勝利の杯を掲げる手が、セイルーンの次の将来を持ち上げているようだった。
ゼルガディスもその杯を見た。
その金色の杯は太陽の光を受け、美しく輝き、まぶしいばかりだった。
その輝く杯の太陽の先にきらりと輝くものをゼルガディスは見つけた。
逆光でまぶしく正視することができないところに。
「まさか・・・」
ゼルガディスはそれを瞬時にあの不思議な塔の少女であると思った。
そのまま、金の杯を彼を取り囲っていた、金の刺繍が細かくされている衣装を身に纏った神官たちに押し付けると、すぐにその場を飛んだ。
公式な神前試合であるのにもかかわらず。
この後でセイルーンの凱旋パレードがあるのに、勝利の王子として印象付ける、またとないチャンスであるのに。
今の彼にそれらのことはまるで夢のように忘れ去られていた。
だって、あの不思議な少女は彼にとっての勝利の女神であったのだから。
彼はこの一瞬、この愛すべき民よりも自分のことを考えたのだった。
国民も父王もこれから臣下ににるであろう人たちも、アメリアも神官たちも、自分の先祖でさえも関係なかった。
彼の浮遊術はまるで鳥のようだった。
作品名:契約の代償〈第二章めぐりあい輪廻 P31ガブリエル回想UP〉 作家名:ワルス虎