契約の代償〈第二章めぐりあい輪廻 P31ガブリエル回想UP〉
「お前はあの娘と知り合いなのか?」
目の前に突然現れた青年に、金髪の美女は目を見張った。
「あなたは?」
ゼルがディスは不思議がる美女をよそに少しずつ間合いを近めていった。
そして、金髪の美女の座る白いテーブルまで近寄った。
「俺は・・・」
聞きたいことは、山ほどある。
「俺は、ここセイルーン王国の第一王子、名はゼルがディスだ。」
金髪の美女が見守る中、左腰に携えてあった、剣を鞘からゆっくりと出した。
その金の剣柄の部分の美しい彫りの入ったセイルーンの紋章を彼女に見せた。
その紋章を目を見開いてみていた金髪の美女はゼルガディスの顔をゆっくりと見据えた。
「こちらのセイルーン王国に一人の美男子の王子様がいらっしゃるとは、噂で存じていましたわ。」
そして、金髪の美女はにっこりと笑った。
「お・・・俺は、嘘はつかん。この剣は本物だ。」
ゼルガディスは金髪の美女の視線に緊張し、少しどもりながら言った。
そして、その剣をしまった。
「ええ。そうでしょうね。
このような見事な金細工の彫りが入った剣を見たことなどありませんもの。
一目見るだけで、偽者か本物か素人目にもわかりますわ。」
美女はまだテーブルに置かれてあるカップの中に入った紅茶を一口飲んだ。
「王子様。」
「まさか、わたくしみたいなみすぼらしいうちに、しかもこんな辺鄙な所まで、突然セイルーンの王子様が訪ねてくるなんて予測していなかったので・・・
ほんの少しだけ驚いただけですわ。」
そして、ゼルガディスのことを上目遣いでちらっと見ると、
「リナと突然のセイルーンの王子様の登場と関係がおありなのでしょう?」
金髪の美女は面白そうに品よく笑うと、ゆっくりと立ち上がった。
ゼルガディスはその姿に、どきっとした。
先ほど座っているときは感じられなかったが、この金髪の美女はゼルガディスに負けず劣らずスラリと長身な女性だった。
金髪の美女は
白いテーブルを片手で触りながら答えた。
「リナにと一緒にいると、いつでもわたくしの周りでは不思議なことが起きるんだと心の中で、いつも理解していましたから。
大丈夫ですわ。」
そして、金髪の美女はゼルガディスの横を通り過ぎると、
くるりと後ろを振り向き、
「もう、夕暮れ時も終わりでしょう?
もうそろそろ、この辺りは暗闇に包まれてしまいます。
街と違って、魔法力の街灯などないところですよ。
森の中の一軒屋ですもの。」
そして、木で作られた白い家に向かって歩き始めた。
「いくら5月の時期とはいえ、森の中ではね、夜になるととても冷えるんですのよ。
王子様に何かあってはいけませんわ。
狭いところですが、もしよかったらわたくしの家でお茶でもいかがです?」
金髪の美女は、木でできた白い家の前に垣根のように茂っている薔薇の木の前に立った。
青年は、美女を追うように歩く。
「わたくしが、こちらで育てましたローズティーを淹れますわ。
今は薔薇の花盛り。
こちらの花壇に生えています薔薇の花をひとつ摘んで参りましょう。」
そう言って、金髪の美女は少しだけかがむと、持っていた裁ちばさみで一つだけ真紅の薔薇を摘んだ。
「どうぞ、いらっしゃいませ。」
そして、ゼルガディスのことを横目で見ると、玄関先まで歩いていって手招きをした。
作品名:契約の代償〈第二章めぐりあい輪廻 P31ガブリエル回想UP〉 作家名:ワルス虎