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契約の代償〈第二章めぐりあい輪廻 P31ガブリエル回想UP〉

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それは酷い干ばつがあった年でした。
わたくしの故郷では干ばつはそう珍しいことではありませんわ。
痩せた土地。
また、冬になると北のほうから冷たい空気が流れ、その空気はわたくしの故郷を凍てつかせました。
夏はその乾きで私たちを苦しめ、
冬はその凍てついた空気で、私たちの心すら凍らせた。
そんなところに住む者たちなんて・・・
それはそれは貧しい生活を送るしかなかったのですわ。
きっと何でも恵まれてお育ちになられた王子様には想像もつかない生活ですわ。
非常に過酷な環境でした。
ちょうどわたくしが12歳になったときでした。
わたくしの家にはたくさんの兄弟たちはいましたの。
といっても、本当の兄弟たちではありませんわ。
そうです。
わたくしは、この家の養女でした。
わたくしは物心ついたぐらいに流行り病で両親を二人とも亡くしてしまっていたのです。
行くあてがないのを気の毒に思ってわたくしのことを引き取ってくださったのが、叔父でした。
叔父の家に行ったわたくしは本当にいらない娘でした。
わたくしが来たため、元々少ない食べ物をわたくしにまで分け与えないといけない訳でございましょう?
それは想像にたやすい事でしたわ。

パチパチ・・・
じじじじ・・・

木の焼き焦げた匂いが部屋中に充満していた。
火は暖炉の中でくすぶり続け、その煙は小さな煙突の方まであがって行く。
家族はその小さな暖炉の前を取り囲むように暖をとっていた。
義理の父も義理の母も兄弟たちも。
金髪の少女だけが兄弟たちよりも離れたところで、薄汚れた毛布に包まり寒さに身を縮こまらせていた。
少女は自分が吐く息が暖炉の火より暖かくないことは知っていたが、少女の凍えている細い手を温めるにはこの方法しかなかった。
この小さい家は立て付けが悪く、所々から隙間風が入り、時々暖炉の火をも煽った。

「ねえ。あんた・・・。寒いわ。子供たちも震えている。」
一人の髪の乱れた女性が、乳飲み子を抱きながらそう口を開いた。
男性は妻の言葉に反応したが、暖炉の火を見続けていた。
「ああ。本当だな。俺も寒い。
 薪が底を尽きそうだ。今日は買いに行かなくてな。」
そう陽抑のない言葉で男性はつぶやいた。
女性はその言葉に深いため息を吐くと、夫にあきれたような眼差しを向けた。
「薪を買うってったって、うちの家のどこにそんなお金があるっていうんだい?
 薪だって、そう高くはないんだ。
 この小さな火だって、私たちが一生懸命冬になる前に集めてきた小枝じゃないか。」
小枝は冬の間に湿気ってしまい、火力は微々たるもので、煙が多い。
「知っているさ。だが、家族で力を合わせてこの冬を乗り切るしかないだろう。」
今年は最悪な年だった。
酷い干ばつでほとんど農作物は取れなかった。
そのため街の市場に農作物を売りに行くことが出来ず、現金収入を得ることができなかったのだ。
「しょうがない。
 村長さんに会って、またお金を借りてくるさ。」
男性は妻を見ないようにして、暖炉の前から立ち上がった。
そして、壁にかけてあった黒いフードつきのコートを羽織ると、「すぐに戻る。」と言い残し、家の扉を後にした。