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契約の代償〈第二章めぐりあい輪廻 P31ガブリエル回想UP〉

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金髪の少女の義父は大きな家の玄関先から出て来て、コートを羽織り、ポケットに手を突っ込んだ。
外はもう薄暗く、ちらちらと雪が振ってきては彼の肩にかかった。
灰色の世界が広がっている。
彼は振り返って、大きな家の窓を見た。
窓の中には暖かな明かりが灯り、この家の子供たちがはしゃいで走り回っている。
そこに、母親から「ごはんよ〜!」という声がし、子供たちは「はーい!」というと、そこから消えていった。
おそらく食事の前に手を洗ってくるのだろうか・・・
まるで、その窓からもれ出てくる暖かな明かりが己のふがいなさを明るみに出しているような気がして、男性はその場を早歩きで後にした。
「くそっ!」
いらいらしながら、自分の家を目指した。
村長の家から自分の家まで、30分くらいだ。
荒れた畑と林を3つも越えれば、家族が待つ自分の小さな家がある。
男性は家路を急いだ。

もうすぐ、自分の家に辿り着くところだった。
林の整備されていない道を通っていると、大きな木の先に黒い厚手のコートを着ている自分よりも大きな男性を見た。
近くなりかけ、その大男が自分の見知った顔であることに気がつき、男性は舌打ちをした。
「よぉ。ベルナール。」
男性は無視を決め込み、大男の呼びかけには応じず、その場から立ち去ろうとした。
しかし、右肩を捕らえられ、向かわざるを得なくなってしまった。
「無視するなよ。ベルナール。
 見てたぜ、お前が村長の家に入るところを。」
その大男は男性に威圧感をかけながら、にやついた顔を見せた。
「グジョン・・・この手を離してくれ。」
男性はしかめ面をしながら、大男の大きな手を離そうとした。
彼はわかっていた。
この大男と関わるとろくなことがないと。
この大男は村中でも評判の悪い男だった。
結婚もせず、定職にも就かず、この貧乏な村とこの村の隣町を行ったり来たりしていた。
こんな貧乏な土地で働かずして食べていけるわけがない。
悪事に手を染めているに違いない。
特別に、この大男のことを聞きもしなくても悪い噂は自然と耳に入ってきた。
「大方、村長んところに、金でも借りに行ったんだろう?
 でも、借りることはできなかった。どうだ?」
大男のにやついた顔は、さらにいやらしさを増した。
男は中腰になり、男性の眉間に皺が寄った顔を無遠慮に覗き込んだ。
「金が借りられなかったら、辛いだろうな〜。
 おまえんところは、明日の食い扶持を探すだけでも大変な有様じゃないのか?」
そんなことを一番知られたくない相手に図星を指され、男性は口をきつく閉じた。
「グジョン、あんたには関係ないことだ。
 俺のことは放って置いてくれ。」
そして、男の手を振り払いその場を去ろうとした。
「まぁ、待てよ。ベルナール。
 おまえに、いい話があるんだよ。」
「どうせ、ろくでもない話に決まってる。」
「おっと!そんなこと聞く前から決め付けるなよ。
 聞いてから、おまえ自身で判断しろ。」
大男はにやつきながら首をすくめる。
その顔があまりにも憎らしかったため、男性はその大男を睨みつけた。
「あの子さ・・・
 おまえんところに金髪の女の子がいるだろう?
 あの子を売ればいいのさ。」
大男は男性にそう切り出した。
「おまえ・・・!あの子はまだ子供だ!」
その言葉に男性は、一瞬の内に怒りを感じずにはいられなかった。
「隠しても無駄さ。
 あの金髪は否が応でも人の目を引く。
 どうせ、あんたとあんたの奥さんの娘ではないんだろう?」
大男は男性の顔を見た。
確かに、その男性の髪は金色ではなく、褐色の色をしていた。
「・・・そうさ。
 ガブリエルは死んだ兄さんの大切な忘れ形見さ。
 売るなんて・・・」
そう、男性はつぶやいた。
その言葉を聴くと、大男は大笑いを始めた。
「くっくっく!!
 面白いことを言うな〜!ベルナール!
 大切な?だと。
 よく言ってくれるぜ。
 家で、あの娘のことを虐げているくせに!
 おまえの奥さんから、折檻されているところを俺は見たことがあるぜ!
 なんでも、戸棚に閉まって置いたクッキーを一枚勝手に食べたとかで、あれは見てるこっちが辛かったぜ!」
「・・・」
大男の指摘に男性は辛そうに押し黙った。
そう。
そうなのだ。
大男の言っていることは真実。
家族に満足を言わせるほど食べさせてあげられないことの自分のふがいなさ。
そのために妻が、やり場のない閉塞感をガブリエルに向けて折檻していることを止められない自分がいる。
そのことを男性はわかっていた。
この貧しさから一体どうやって抜け出せばよいかなど、男性は知りもしない。
まじめ一方の性格なのだから。
「金髪と青い瞳を持つ娘は、南方では黄金と同じ価値があるのを知っているか?」
「黄金と・・・?」
「なぁに。
 心配することはねぇ。」
大男は、男性の背中をポンと叩いた。
「金持ちのところへ売られて行くんだ。
 あの娘にとっても、もしかすると幸せなことかもしれないんだぞ?
 これはチャンスだ。
 考えてもみろ。
 金持ちは俺たちには想像もつかないほどの贅沢な暮らしをしているという話だ。」
男性は南方の金持ちの噂をいつか耳にしたことがあることを思い出した。
広々とした広大な土地に果物が成る木が様々に植えられ、人々が飢えることなく。
また寒さもなく。凍えることはない。
そこに、白亜の宮殿が建てられ、人々が絢爛豪華なパーティーを毎晩繰り広げられ、夢のような世界があると。
それはまさに楽園だ。
ここでは一面灰色の世界。
まるで死の世界のようだ。
そんな夢のような世界があるなどと想像すらもできない。
「ここじゃ、きっとあの娘にも満足な暮らしはさせてあげられないだろう?
 しかし、南方では飢えることはない。
 ここよりはきっとましだろうよ。」
太い腕を腕組みした大男は自信たっぷりに言い切ってみせた。
そして、大男は3歩後ろに下がると、男性が進む方向と反対方面へと歩き出した。
後ろを振り返り、
「俺はあんたのところの娘を前から目を着けていた。
 悪い話じゃない。あんたも俺も儲かる。あの娘も幸せ。
 すべてが丸く収まる。
 考えておいてくれよ。」
そう言い残し、前を向くと去っていった。
その立ち去る姿が見えなくなると、急に男性は気分が悪くなっていくのを感じていた。
口元を押さえながら、自分の家の方向へと走って行った。