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契約の代償〈第二章めぐりあい輪廻 P31ガブリエル回想UP〉

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ゼルガディスは驚いたように、目の前にいる妖艶な金髪の美女を見た。
彼女は昔を懐かしむように、しかし、艶やか(あでやか)に笑った。
「ガブリエル・・・お前の過去は・・・」
そして、彼は何故か言葉を発するに言い淀んだ。
なぜかその事を自分自身が想像してはいけないような気がしたからだ。
その顔を見て、ガブリエルが言葉を続けた。
「ええ。王子様。
 その通りですわ。
 わたくしが、外に飛び出していったのが運の尽きだったのですわ。
 あの男はわたくしの家の周りをうろつき、わたくしを捕まえるチャンスを伺っていた。
 はじめから、わたくしの家族に了承を取るつもりなんてなかったんです。
 だって・・・どうせわたくしは厄介者ですもの。
 わたくしがいなくなったところで、大事にはならないわ。
 そして、わたくしを捕まえた。
 ねえ、12歳の非力なわたくしがあんな大男に敵うはずもありませんですものねぇ。
 軽々と持ち上げられましたわ。
 わたくしの抵抗も虚しく・・・。
 わたくしの声はあの冬の空に消えていった。
 それからあの男に捕まり、奴隷商人へと売られていったのです。
 どうせ、わたくしには帰る場所もない。
 ただ、行く場所がどこかをその時点で知らされなかっただけの話。」
ガブリエルの深い青い瞳の視線は、ゼルガディスの持っているローズティーのカップに落とされると、
「あら、お茶が冷めてしまいましたね。
 入れ替えましょうか?」
そう言った。
そして、金髪の美女は暖かいローズティーを手際よく淹れなおした。
「こちらもどうぞ。お食べになって。」
そう言って、ガブリエルはゼルガディスの前にバスケットに入ったバター入りのシンプルなクッキーを前に出した。
ゼルガディスは神前試合の後で通常の状態なら絶対に空腹状態であるのにもかかわらず、なぜか出されたクッキーを胃の中に入れる気がしなかった。
というより、空腹を感じなかった。
先の祝杯で神酒を呑んで、少し酔いが回ったことも、このガブリエルの話で抜けてしまったようだった。
言葉を失った美しい若い王子を見て、ガブリエルは少し笑った。
その手をとって、暖かいカップを持たせ、「ほら。王子様。」と、2杯目を飲むことを進めた。
「王子様。・・・わたくしが育った貧しい北の土地では子供の人身売買はそんなに珍しいことではありませんわ。」
そして、ガブリエルは静かに目を閉じた。
昔、育った自分の故郷を思い出しているのだろうか。

「貧乏というのは、ときどきに不幸を招きますわね。」
その言葉はまるで子守唄を歌うかのような口ぶりだったのに、富める国セイルーンの王子ゼルガディスの胸には強く突き刺さった。