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契約の代償〈第二章めぐりあい輪廻 P31ガブリエル回想UP〉

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それから少女はこの大男に担がれ、村の外れの森にあるあばら家へと連れて行かれた。
手足を縛られ、口に布を詰め込まれた状態で。
少女はその状態に恐怖し、力の限りに暴れた。
一体自分に何をされるのか怖くて仕方がなかったから。
暴れる少女に大男は少女の顔の前で強く手を叩くとパチンと音が狭い部屋に響いた。
驚いた少女は、大男の顔を見る。
「あんまり暴れるじゃねえ。ガブリエル。俺はお嬢ちゃんを傷つけたくはない。」
先ほどガブリエルを捕まえる際に見せた下卑た笑いと違って、男の顔はお世辞にも男前とはいい難い醜い顔をしていたが、真剣なまなざしに貫かれ、ガブリエルは静かに身を縮こまらせた。
その様子に満足した大男は、鼻をふんと鳴らすと、そのあばら家に備えつけてあったであろう茶色い毛布を取り出し、少女へと被せた。
あばら家はどうやら狩人が頻繁に使っているようで、部屋の真ん中に暖をとる場所があった。
そこに、部屋の端に積まれてあった薪を男は8本ぐらいとってくると、囲炉裏にくべ、小さな魔法の言葉を唱えるとすぐに勢いよく炎が燃え始めた。
少女はそこで始めて魔法というものを目にした。

男は、小さな椅子に座ると、長い金具の棒で、囲炉裏の炎の調節をした。
その炎がちょうどいい頃合になった時。
男はガブリエルが静かになったのを確認すると、彼女に近づき、
両手と両足に縛られている縄を静かにはずした。
「口の布をとっても決して騒ぐんじゃねぇぞ。そして、俺から絶対に逃げ出そうなんて考えを捨てたほうがいい。」
そう、すごむと、ガブリエルは頷いた。
両手で、男は静かに、少女の口にねじ込まされた布を取った。
ようやく開放された少女は、男の目の前で何度か大きく深呼吸をした。
その少女の腰を押し、男は、少女を囲炉裏の近くに座らせた。
そして、しゃがみこんで、ガブリエルの長く伸びた金の髪を一房手に握った。
その行動に、ガブリエルはびっくとし、大男を見た。
大男の額に苦悩の後の深いシワが刻まれていたため、それまでガブリエルは気がつかなかったが、彼の年の頃は30台後半〜40台前半の比較的若い男性だということがわかった。
「ガブリエル・・・。
 お前さんが、こんな目立つ金の髪と宝石のような青い瞳を持っていなかったらな・・・。
 また違う人生が待っていたかもな。」
と、つぶやいてその金の髪をさらりと宙に流した。
「俺はお前の死んだ母親をを知っているぞ。
 母親は・・・本当に不思議な少女だった。
 北のほうから流れてきたものだと話していた。
 剣術が強く、それを生業とし、ギルドにも登録していた。
 北のほうにはお前さんのように金髪の民族がたくさんいると聞く。
 そんな強い母親も冬の流行病には適わないんだな?
 こんな幼いお嬢ちゃんを残して二人とも死んでしまったな・・・。
 無責任なこった。
 去年の冬も多くの者があの村で死んだ。
 あの村には死神が憑いている!
 それとも子供を生むと母親の体力は子供へ行き、本人は儚くなってしまうのか・・・?」
大男は、昔を思い出すように目を細めた。
この男の顔はまるで自分の村を恨んでいるような目つきだった。
ガブリエルの顎を片手で上げしげしげと大切そうに見つめると、窓の外を見た。
月はちょうど頭上にあった。
「ちょうど。あの月が、あの山のてっぺんまで差し掛かったら、真夜中だ。
 この村のすべてのやつらが眠りについている頃だろう。
 その時間になったら、隣町へ出発だ。」

しばらくぼうっと炎を見つめていた大男は何かを思いついたようにポケットをさぐった。
すると、その中からカラフルな綺麗な光沢のある包み紙に巻かれたものを3つ取り出した。
そのひとつを開き、茶色いものを少女の口の中に入れた。
その茶色いものはガブリエルの口の中の温度でふんわりと溶け、
と、同時に、少女の口の中には甘さが広がった。
「甘い・・・。
 おじさん・・・これは何?」
「こいつはな、チョコレートっていうお菓子だ。
 この辺ではあまり売ってなく、高級品だ。」
「チョコレート・・・。」
口の中に甘く広がる感覚を舌で追いながら、つぶやいた。
ほとんど甘いものを口にしたことのない少女は、あまりのおいしさに目を丸くして、口元に手を当てた。
大男はそんな様子に小さく笑い、
「残りもガブリエル・・・。お嬢ちゃんにやろう。
 腹が減ったときにでも食べるといい。」
そういって、大男はそのカラフルな包み紙を渡した。
「おいしいだろう。
 お嬢ちゃんがこれから向かう場所は、こんな甘いお菓子がたくさん溢れたところだ。
 こんな寒くもなく、暖かな場所でお前さんを買ってくれる人がいる。」
そして、大男は少女の頭を大きな手で撫でた。

その手にどきっとしたが、意外とその手は優しく、少女は安堵した。
甘いものをもらった余韻も手伝って。
「こんな甘いものがたくさん溢れた場所だったら、私の弟たちも連れていってあげたい。」
そうぽつりとつぶやいたが、その言葉に悲しそうに男は何も答えず、静かに黙っていた。

「ガブリエル・・・いいか?
 つらいことがあったら、すべて目を閉じているといい。
 それは、心の目を閉じていればいいということだ。
 でも、できなけりゃ、初めは普通に目を閉じていろ。
 すべては他人事のように思えてくる。
 お前さんは、美しいものだけをみていりゃいいんだ。」

これが俺にできる最大限の助言だ。
と、言い。
もうこの次には、この大男はガブリエルとは目を合わせることもなく黙りこくってしまった。

少女にはこの言葉が二度と忘れられなくなり、そして、この言葉がこれからの少女を助けていく事となった。