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契約の代償〈第二章めぐりあい輪廻 P31ガブリエル回想UP〉

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この部屋に案内されてから、何ヶ月経っただろうか。窓には寄せては還す波が見える。彼方に海の切れ目が見え、まるで地上のようだが、ここは紛れもなくアストラル世界。
自分以外は誰も息づいていない。
海は見えても、植物も動物もなにもないごつごつした地面がむき出しになっているだけ。
初めは獣王から説明されたこの病について信じられなかったが、だんだんと自分は間違いなく病魔に冒されていることがわかってきた。けだるい感じ。終わらない熱が続いている。あんなにあった食欲もない。咳が止まらず、胸痛がしばしばあり、誰も見ていないところで、血を吐いた。

前から症状がなかったといえば、うそだ。
心当たりはあったから。

「リナさん。」不意に声をかけられ少女は振り向いた。
「いかがですか?療養生活。」前とは違うからかいのない言葉でゼロス。
「・・・はは。ありがとう。ゼロス。大丈夫よ。」少女は青年のその顔を見て苦笑した。
「何も困っちゃいないわ。ただ・・・」
「ただ?」
「ただ・・・ちょっと切なくなるだけ。もう、死ぬまで誰にも会うことはできないし。ここからも出してもらえないでしょう?」
「・・・」青年はその言葉に押し黙った。
自由の少女は今やどこへも行けずに、ここに留まっている。彼女の持った足かせによって。魔族(じぶん)たちのせいではないのはわかっていたが、罪悪感のような気持ちが彼にはあった。
「出て行く気もないわ。むしろ感謝している。どこにも行く当てのない私を雨風しのげるここにいさせてくれて。」少女は、決心したようににこりと笑った。
「意外とあんたたちって良心的なのね?・・・ごほ!ごほ!」
「リナさん!」少女の体を心配して、肩に手を乗せたが、大丈夫。と言って、その手は少女から優しく払われてしまった。その手が引っ込められなくなって、魔族の青年は少女の対の椅子へと座った。
「ガウリイさんに会えなくなってしまって寂しいですか?」
「・・・。それはね。でも、あたしの病気をガウリイにあげたくない。」優しい娘は、静かにそう話した。
きっと、これからの人生をあの青年と生きていくはずであったのに、スフィードの神とはひどい人物らしいと、青年は思った。
「僕がついていますよ。」
「僕がついています。僕には人間の病には罹らない。」青年は、少女の手を握った。
「ありがとう。」少女は苦笑し、青年を見た。そこには、困った顔の青年がいた。
「考えてください。まだ、あなたには少しの時間がある。魔族になれば、あなたの苦しみは解き放たれる。あなたのお姉さんはそれを望みました。」

「それを忘れないで。」