Love of eternity
8.
プっと小さくシャカが吹き出すものだから余計に居た堪れなくなった。
「わ…笑うな!」
「―――いいだろう、アイオリア。例えば私の本心がおまえを求めていたとして、それでもおまえはその薬を飲ませるのか?そして残りの半分はおまえが飲むのか?」
「俺が……?」
「そうであろう。でなければ私は男に抱かれた愚かな男としておまえの記憶に残るのではないか。そんなことを私が許せるとでも?」
「……そう…だな」
叶うことのない願いなのだろうか。
シャカを思い続けることは。
シャカが例えたように、もし本心から俺を思ってくれたとして、その事実を忘却の彼方に捨て去らなければならないのだろうか?
「君だけが覚えていることは辛いことだ、きっと。おまえとの記憶を消した私をおまえが思い続けるのは酷なことだと思うのだ」
きっと身を切るような想いだろう。
それは。
それでも構わない、俺は―――。
「ところでシャカ……おまえの本心を聞いていないぞ」
肝心なことをはぐらかそうとするシャカを逃しはしなかった。
はぁと諦めたように深い溜息を一つついたシャカはツカツカとアイオリアの前に立った。
「アイオリア、立ちたまえ」
差し出された手を握り、そのまま向き合うようにしてアイオリアが立ち上がった。
ふわりとシャカの閉じた瞳が開かれる。
告げられる言葉以上に、物言う瞳。それは迷いなき天空の蒼。逸らすことを許さない、瞳はアイオリアを見つめる。
真直ぐに。
ただ、まっすぐに射す光のように透明なシャカの心が流れ込んでくる。
広がる空が果てしないように
深く底のない海のように
静かなシャカの溢れる心がアイオリアの中に満たされていく。
母なる大地のように
豊穣の女神のように
アイオリアを大いなるシャカの愛が包む。
「―――それが喩え刹那の刻であったとしても」
「シャカ?」
―――この愛を決して失わぬように
―――この手を離したくはない。
―――それでも、手放さなければ。
「シャ…カ!?……何を!?」
―――二人で見上げた空が
―――さめるような美しい蒼だったということを
―――決して、忘れたりしない。
「―――たとえアイオリア、おまえが失くしたとしても」
「やめ…ろ、シャ…カ……」
ぐらりとアイオリアの視界が歪んでいく。
シャカの蒼い瞳から流れ落ちる滴が残酷に告げる。
「―――さようなら。アイオリア」
意識を失い倒れていくアイオリアの身体を受け止めて、シャカはその大きな背中に縋るように抱きしめた。
「―――さようなら、おまえの中にいる……私」
シャカの静かに降る雨の音のような嗚咽だけが静かに響き渡った。
作品名:Love of eternity 作家名:千珠