Love of eternity
9.
「―――やっとお目覚めのようだね、アイオリア。気分はどうだい?」
「魔……鈴か?―――っつ!」
ズキズキと頭が痛む。頭の奥が焼け付くような痛みを感じる。
「俺は……何があった?」
「あんた、まさか……憶えてないのかい?」
動揺するような魔鈴の声音に何か自分の身に降りかかったのだろうかと、危惧する。
「憶えてって……何を?」
そう言われて魔鈴を見ると、記憶にあるよりは幾分女性らしい体型になりつつある魔鈴に少し動揺を憶える。
―――おかしい。
何かがおかしい。
魔鈴だと思う一方で、大人びた彼女にアイオリアは違和感を覚える。
「おまえが魔鈴だとは思うのだが、どうもピンとこない。それに……何だろう……何故か悲しい。何故だ?俺の身に何が起こった?」
大切な『何か』が、失いたくなかった『何か』が俺の中から音もなく消えた。そして、頭の奥で無理に追いやられたものが、もがき苦しんでいる。
「ふ……ん、そう、か。そういう意味だったのか」
深い溜息と共に椅子に座り足を組み、腕を胸の前で組むと俯いて深く考え込んだ魔鈴はしばしの沈黙ののち、ようやく口を開いた。
「アイオリア、あんた……シャカのことは憶えているのか?」
「シャカ?あのクソ生意気なあいつがどうかしたのか?」
絶句したように再び沈黙し、言いあぐねたように逡巡した魔鈴は静かに淡々と語りだした。
「―――二日前、聖域の外れにある崖下でおまえが倒れていたのが雑兵に発見された。ちょうど、その時おまえが姿を消したのを知った教皇により、雑兵たちが捜索していたときだったのだ。ある意味、運がよかったよ。行方がわからなくなったのはそのせいだということで、今回何の咎めもなかったのだから」
「なんで、俺がそんなことになっていたんだ?」
「あたしが……知るわけないだろ?ただ、それが事実だ。そう……『事実』なんだ」
含みのある魔鈴の物言いが気になったが、よほど強く頭を打ったのだろうか、もやもやとした霞がかった先の見えぬ道をおぼつかない足で歩いているような気分の悪さがこみ上げ、眉間に皺を寄せる。
「もう少し休みな……何か飲むものでも持ってきてやるから」
「悪い……」
そうやって、再びまどろみの中に落ちていったアイオリアを表情の伺えぬ仮面で見て取ると、魔鈴は静かに扉へと向かった。
魔鈴がゆっくりと扉を開けたその先には、黄金聖衣を纏った聖闘士が静かに吹く風を受けながら、緩やかに黄金に煌めく髪を靡かせていた。
作品名:Love of eternity 作家名:千珠