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Love of eternity

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2.

「綺麗な夕焼けじゃないか。なのに、あんたときたら、随分とまぁ……シケた面をしているな?アイオリア」
 石垣に腰を掛けてそこから見える景色をぼんやりと眺め、所在無げに足を揺らしていると、その足元からかけられた独特の少しくぐもった声。
 億劫そうに顔を向けるとそこにはシケた面なぞ映すことの無いだろう仮面があった。魔鈴だった。
「人の面のことなんて、どうだっていいだろう?放っておいてくれ」
「おやおや、ご機嫌までも大荒れかい?」
 茶化すように言うと、魔鈴は軽く石垣に手をかけ、軽やかにジャンプする。まるで上空から滑るように流れ落ちた身体は次の瞬間には真横に立っていた。真っ直ぐに前を見つめる魔鈴。
「もっとも近くて…もっとも遠い世界……だな。アイオリア?」
 魔鈴は俺が眺めていた景色を見て、そう呟いた。
 聖域の最も高い場所に位置し、庇護するようにそびえ立つ女神宮、それに続く教皇宮、十二宮……近くて遠い存在。今の自分にとって。
「―――そうだな」
「ところでさ…また処分を喰らったって聞いたんだけど。アイオリア、今度は何をやらかしたんだい?」
「耳聡いなぁ、どこからその情報仕入れてきたんだよ…まったく」
「ゴシップネタは回るのが早いのが世の常だろ?人の話を盗み聴くのが好きな奴らが多いんだろう、教皇宮には。或いはおまえの評判が落ちるのを喜んでいるヤツがいるとか?」
「くだらないな」
 肩を竦めてみせると魔鈴もそれに返すようにくすりと笑い、魔鈴は俺の隣に腰を落ち着かせた。そして諳んじてみせるかのように一本調子で話し始めた。
「教皇様の覚え目出度き乙女座様が、不出来な獅子座様を十二宮からの永久追放を教皇様に願い出た。無慈悲な乙女座様はさらに御所望あそばされたらしい。獅子座の黄金聖衣を召し上げてしまえと。まぁ…こんな感じで冗談半分、まことしやかに囁かれているけれど」
「言いたいように言わせておけばいいさ。しかし、相変わらず脚色好きな奴がいるらしいな?」
 空虚なほど話がずれていることに苦笑するしかない。陰口を叩かれるのにも慣れていたし、大体が身に憶えのないことだから割合、平然と過ごしてきていたが。
「可笑しいだろ?もともと獅子宮は教皇に召し上げられているのに、そんなことをわざわざおシャカさまが言うわけないだろうにねぇ?そんな作り話なんぞする暇があったら、もっとマシなことでも考えればいいのに」
 可笑しそうに笑う魔鈴だったが、口を噤んでしまった俺を不審に思ったのか、怪訝そうに尋ねた。
「おや…まさか?本当の話かい?」
「いや…でも似たようなもんだ。シャカ曰く、俺は勅命を果たすのに何の役にも立たず、むしろ…邪魔なだけ。教皇の前できっぱり、そう言われた…俺のプライドはズタズタさ。まぁ、でも確かにそうだと思うよ、あいつのやり方は俺には理解できないし、足を引っ張るようなことしか出来ないだろうからな。シャカ一人で赴くほうが余程容易く勅を果たせるだろうし。それに己の修行にもなるとあいつは教皇に願い出たんだ。邪を払う剣はあいつ一人で充分だと、な。それで、今後一切の勅命はシャカが引き受けることらしい。随分と働き者だよ、あいつは」
「ふ…ん。それで、あんたはハイそうですかと引き下がったのかい、アイオリア?」
「俺が何か言える立場だとでも思っているのか?あいつはそれを望んでいるのだから……魔鈴?」
 すっと腰掛けていた石垣から飛び降りた魔鈴は下の道から顔を上げた。
「大バカ野郎のくそったれだよ!そこでずっと頭を冷やしてればいいさ!まったく聖闘士の風上にも置けやしないね!」
 吐き捨てるように言う魔鈴がなぜそれほど怒っているのか解せなかったが、その言い草はさすがに癪に障ったので言い返してやろうと思った。だが、結局、何も言い返せなかった。
 魔鈴の言うとおりだ、と思う気持ちがあったからだ。
「聖闘士失格…だな」
 赤に近い橙色の帯が広がり、染め上げられていく十二宮に視線を向ける。
 十二宮だけがこの聖域から切り取られ、遠く離れた場所にあるかのような錯覚を覚えた。


作品名:Love of eternity 作家名:千珠