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Love of eternity

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Still Waters -Decresc.-


1.

 愛している。
 愛している。
 この世界の何よりも、誰よりも。
 でも。

 その言葉を軽々しく口にすることもできなければ、手を伸ばし、抱き締めることなど到底できはしない。
心の内にそっと育むことだけがせめてもの赦しだとすれば。星の瞬きさえない暗闇の中を彷徨ったとしても、朝陽に眩しく映えるその姿を思い起こして、きっと正しい道を歩み続けることができる。
 それだけを救いに、拠り所に、灰色の日々を過ごしていく。優しい春の緑風でさえも、冬の吐息のように感じてしまうそんなとき――ただ、君の姿を心に思い浮かばせるだけで 冬の結晶さえも溶けていく。
 ただ、君を想うだけで小春日和の陽射しに包まれる。




「後輩の育成というものは、いうほどに容易いものではないというのがよくわかったよ」
 溜息混じりに吐き出した愚痴を「そうだな」と、軽く受け流したシャカの顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。いわゆる愛想笑いというものだろうな…と、僅かに肩を竦めながら思ったカミュだが、それでも、あの凍てついた冬の景色の中で、唇を噛み締めていたシャカの姿を思えば、幾許かの安心を得ることができた。
 任務終了後、早々に修行の地へと戻ると同時に新たな役割を与えられたため、シャカのその後のことなど、カミュは知る由もなかったから。
「しかし、得るものは多かろう。カミュ?」
 窓から差し込む陽光を受け、きらきらと細波が寄せるように揺れたシャカのまっすぐな金色の髪をほんの少し、眩しげに見ながら、カミュは頷いた。
「それもそうだが……自己の鍛錬がどうしても疎かになりがちだ」
 苦笑しながら返したカミュは先刻渡された書類にざっと目を通すと、形式どおりにサインを書き殴った。そこに書き記されてあったものは大した内容などではなく、わざわざ黄金聖闘士であるシャカに足を運ばせる必要などあるのだろうか、と不審に思うほどだ。
「おまえも、こんな辺境の地までこんな書類のために足を運ばさせられることは不本意なことだろう?」
 カミュの鋭い視線が、するりとしたシャカの無表情に向けられた。
「そうでもないが。いい気晴らしになる」
「なら、いいけれども。私には無理をしているようにしかみえない」
 肩を竦めてみせながら、カミュは手元にあった書類に視線を戻し、もう一度、記入漏れがないかを確認すると、丁寧に封を施してシャカへと渡した。
「君の気のせいだろう、それは」
 受け取ったシャカは、もう用は済んだとばかりにイスから立ち上がりかけたが、その動作を止めて、中腰のままの姿勢で眉間をわずかに顰めると、剣呑な雰囲気を纏った。カミュがグッとシャカの腕を掴んだためだ。
「―――本当に?」
 鋭く、尖った氷柱のような危険さを孕み、伺うように覗き込むカミュの真摯な眼差しだった。僅かに息を呑んだシャカだったが、小さく、だが、きっぱりと頷きを返した。
「ああ」
「……わかったよ。もう何も言わない。聖域の皆によろしく伝えてくれ。達者でな、シャカ」
 観念したように、掴んでいた手の力を抜いてシャカを解放したカミュは、温かな微笑みを浮かべ、シャカにありったけの優しさを届けた。

作品名:Love of eternity 作家名:千珠