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Love of eternity

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2.

 あの頃は
 どんな明日が来ようとも、恐いものなどなかった。
 己の弱さにも、堂々と向き合う心だった。
 だが、今の私は―――

 偽ることしかできず、
 目を逸らし、
 虚勢を張り、
 隙あらば逃げ出そうとしている臆病者。
 大声を上げて泣くほどに幼くもなければ、
 喩えようのない寂しさを笑い飛ばせるほどに大人でもない。
 ただ、膝を抱えて行き場のない想いをそっと抱くだけ――。

「なぜこうも、お節介な者ばかりなのか」
 去り際のカミュの思いやり溢れた微笑は、シャカの平坦な心をざわつかせるものとなった。
 シャカが聖域に戻ってみると、用を命じたはずの教皇は瞑想に入ったらしく、幸いにも顔を合わさずに済んだ。シャカは、代わりに従者へとカミュからの書簡を渡したあと、自宮へと戻り、聖衣を脱ぎ捨て、熱い湯で身体を清めたのち、夜着を纏うことさえもせず、滑るように寝台へと向かった。
 生乾きの髪をシーツの上に散らばらせるようにして横たわったシャカは深い吐息をついたのち、日の匂いのするシーツを手繰り寄せ、顔を埋めた。 伸ばしていた長い手足をシャカは小さく折りたたむようにして、身体を丸め、うっすらと瞳を開けたまま、胎内の赤子のような姿勢になった。

 何かをしていれば気を紛らわすことができたし、己を誤魔化すこともできた。だから、どんな下らない勅であろうと、すべて引き受けてみせた。むしろ、何もすることがなくなってしまった空虚な時間…今の瞬間のような空白の時間が、シャカにとっては何よりも恐ろしく、苦痛としか言いようのないものだった。
 止め処もなく溢れ出る思考の潮が、遠浅の心に満ちて、泳ぎ逃げることも叶わないままに、己を溺れさせてしまうほどに。

 ―――すべては己が選んだ道。

 潔く、堂々と渡り合っていかなければならない。この寂寥でさえも受け入れ、面と向かい合わなければならないということも十二分に承知していた。けれども、どうにも向き合うことのできる強さを失くしてしまう時があった。

 ―――今、この瞬間のように。

 スッと指でシャカは頬をなぞった。
 聖域の…教皇の正義に従わぬ「悪」の討伐を命じられた。その勅命の下、己にとっては正義でも悪でもない者を討った。無傷のまま勝利することなど簡単なことだったが、ほんの些細な気の迷いが生じた結果、かすり傷を負った。だが、たかがかすり傷。傷を負っていたことさえ忘れていたのに、アイオリアが触れたことによって、その傷にリアルな痛みが生じた。
 そしてその傷も今はもう、とっくの昔に癒えて、新しい皮膚が覆っている。それでも、あの温かな指先の感覚は今も覚えていた。たった今生じた傷のように頬の傷跡が焼けるような痛みを発している。
 切り捨てたはずの痛みを感じている。
 そのことを思い出させたのはアイオリアと、そして――もうひとり。
「切り捨てるな、か。なかなかに……惨いことをいう女だ」
 聖域の掟に従って「女」という性を仮面の下に覆い隠してまで聖闘士として生きてきた彼女――魔鈴がシャカに素顔を晒すという行動に少なからずショックを受けた。
 切り捨てることなどできない「女」という性に対して魔鈴はどう向き合ってきたのか…考えずともわかる。潔いまでに堂々と渡り合ってきたのだろう。
「きっと昔の私のように……」
 切り捨てることでしか、この痛みから逃れることなどできないのだとしても、その痛みを抱えて生きていくことこそが必要なのだと魔鈴は伝えようとしたのだろうか。それが、自らが選んだ道なのだと。
「わかっている。けれども、今は―――」
 大声を上げて泣くことができるほどに幼ければ、きっと剥き出しの感情のままに溢れる涙を止めはしなかっただろう。
 寂しさを笑い飛ばすことができるほどの大人であれば、腹を抱えるほどに愚かな己を笑い飛ばしただろう。
「私は……世界一、愚かで、臆病で、身勝手な、卑怯者だ」
 手繰り寄せたシーツにより深く顔を埋めたシャカは、バランスを失くした心の眩暈に酔ったように、きゅっと固く唇を噛み締め、眉間に皺を寄せると、闇の中で低く呻いた。

Fin.

作品名:Love of eternity 作家名:千珠