Love of eternity
2.
「なるほど。あたしの生き方に意見することなく、ただそっと見守り、力になってくれるような男か。そういう男には滅多にお目にかかれないだろうな」
「そうかもしれんが、きっといると思う。おまえの生き方を認め、支えになれる者が」
「……それで、あいつはそうじゃないと。そう思うのか?アイオリア」
静かに、だが有無を言わせぬ迫力をもって詰問されたアイオリアは口を噤む。
「あいつは……」
慈悲なき男だ。
容赦なく敵を打ち負かし、その手は血塗れている。人としての感情を映すことの無い、ただ冷たく光る月のような白い美貌の主。
アイオリアが躊躇し奪えなかった命を何の感情も推し量ることのできない無表情のまま、いとも簡単にその手にかけることのできる男。
乙女座のシャカ。
「聖闘士としては確かに一流だろうが、人としてあの男は……悪いことは言わん。おまえがつらい思いをするのは目に見えている」
魔鈴は知らないだけなのだ、シャカの残酷な一面を。そう慮って言葉を濁す。
「―――優しいんだね、あんたは。だが、考え違いはよしとくれ」
ふわりと風に柔らかな髪を舞わせ、手ごろな岩の上に魔鈴は腰をかけた。
「はあ?」
「―――好きか嫌いかと問われれば、嫌いじゃないと答えるさ。あのお綺麗な顔で容赦なく人を扱き下ろす傲慢な面も。だが、あたしは……あの男のしたことを許すことはできない。あいつの生き方が気に喰わないんだ」
「シャカがおまえに何かしたのか?生き方が気に喰わない?よくわからんが」
「あたしには何もしてない。わからなくていいさ……アイオリア」
ふっと仮面の下で悲しく笑んだ魔鈴は、手に小さな瓶を取り出し、アイオリアに見せた。
「なんだ、それは」
「こいつを貰いに行っただけさ。高価なもんだから、あたしらみたいな白銀にまで渡らない代物なんだ。星矢がひどく怪我をしたんでね。あたしが知る限りこれが一番効くから、シャカから脅し取った」
「脅し……取った?」
目を丸くしたアイオリアに楽しそうに笑い声を魔鈴はあげた。
「よく…まぁ…生きて帰ったな……」
呆れたようにアイオリアはしげしげと魔鈴を見ると、その無鉄砲さに肝を冷やした。
「神に近い男にも弱みがあるということさ」
ふふんと強気な魔鈴に頭を抱えながら、「今度その弱みとやらを教えてくれ」と呟く。
「さてと、星矢がひぃひぃ言ってるだろうから、そろそろ帰るよ。あんたはまだほっつき歩くのかい?」
「ああ。少し散歩するつもりだ」
「……だったら、祭事の宮に行くといい。気配を殺していくのを忘れずにな。それともう一つ。アイオリア、あたしはあんたの言う理想の男を知っているよ……残念だけど、そいつにはもうちゃんと決まった相手がいるんだ。あたしの付け入る隙なんかありゃしない」
「魔鈴?」
「―――じゃあな」
風を切るように駆けていく魔鈴の後ろを見送ると、天を一度仰いだアイオリアは再び歩き出した。
作品名:Love of eternity 作家名:千珠