Love of eternity
5.
宮から遠ざかり、十二宮へと続く道を辿っていく。さらさらと衣擦れの音を伴い歩くシャカから、仄かに漂ってくる香がアイオリアの鼻腔をくすぐった。何故だか、アイオリアは以前にもこうやってシャカの横を歩いた気がする。
―――そんなはずはないのに。
シャカと並んで歩いた記憶なんてない。
幼少の頃に共に過ごした記憶もない。
親しく話した記憶もない。
ただ乙女座の聖闘士としてシャカという人物が在るということだけだ。勅命で数度任務を共に果たしたことがあるというだけであるとアイオリアは不可解な靄がかる思考に苛立ちを覚えた。
あまりいい記憶とは言い難いシャカと共に果たした任務の数々。無慈悲なまでに冷酷極まりないシャカの行動に反感を抱くだけだったのだから。
―――それなのに。
チリリ。
また……胸の奥が痛い。
何故だか苦しくて、涙が出そうになる。
次第に足取りが重くなり、シャカとの歩調が合わなくなって気がつけば立ち止まっていた。アイオリアが立ち止まったため、シャカも歩みを止め振り返った。
「―――気が進まぬなら、ついて来ずとも良いが」
別段責める風でもなく、静かに淡々というシャカに向かって、アイオリアは首を振った。
「……違う、そう云う訳ではなくて。なぁ、シャカ」
「なんだね」
「おまえはーーー魔鈴が好きか?」
一瞬の沈黙。
何故こんなことを聞いたのか自分でもアイオリアはわからなかった。
「何を言うかと思えば。藪から棒になんだね?あの女聖闘士のことを何故おまえが気にする?」
「あいつは妹みたいなものだからな。良からぬ虫がつかないようにするのは当然だろう」
「ふん。私を虫呼ばわりかね?」
「モノの喩えだ。気を悪くするな。それで、どうなんだ?」
「―――己を殺そうと思う女をなぜ好む必要があるのかね?それに逆もまた然り」
「魔鈴がおまえを?逆もまたって……それはつまりーーー」
「そういうことだ。わかったのなら、二度と同じことを聞くな。不愉快だ」
ふいと顔を逸らし、そのままテレポートする気配を感じたアイオリアが慌てて飛びついた。
「待てって!―――おわっ!?」
「!?」
タイミングが悪かったのだろう。瞬間移動しようとするシャカの力とそれを妨げようとするアイオリアの力が反発した結果、二人はどこか解らぬ場所へと落ちた。
作品名:Love of eternity 作家名:千珠