Love of eternity
2.
「―――おまえの望みどおり、アイオリアの地位は復権させた。アイオリア自身が宮に居ることを快くは思うてはおらぬようだがな。ともかく、これで万事おまえの願いは叶ったわけだ。強かな乙女よ、ようやく戻ってくる気になったか」
「いえ」
途端に教皇の周囲を不穏な空気が包むのを感じ取る。
「では、何故、此処に戻ってきたのだ、シャカよ」
苛々とした感を隠しもしない教皇をじっと心眼で見つめたまま沈黙していたシャカであったが、ようやく口を開いた。
「そろそろ茶番は終わらせるべきかと思いまして」
「茶番?」
怒りを含んだ教皇の言葉にシャカはフッと軽く笑んだ。
「どういう意味だ、シャカ。返答によってはーーー」
ガタンと玉座から立ち上がった教皇を制するように掌を教皇に向けて伸ばしたシャカは着いていた膝を大理石の床から離し、立ち上がった。
「終わりにしましょう、サガ。貴方がなぜそのような愚かな行為を犯したかは不問にしましょう。また、私にしたことも。私が貴方に聞きたいのは今、貴方はそれで幸せなのかということです」
「……!」
絶句し、立ち尽くしている教皇に向かって光を放つ。不意を突かれた教皇の仮面がカラリと乾いた音を放ちながら床に転がり落ちた。
晒された素顔は青褪め、色を失していた。
乾いた口唇が小さく震え、『何故…』と呟いた。
「いつ、わかったのだ……」
「―――闇に囚われた時、私を救い出してくれた貴方の腕は……また闇と同じものだった」
「そうか……今まで気づかぬ風を装っていたのは何故だ?」
「いつか、貴方がその冷たい仮面を外してくれるのではないかと淡い期待をしておりました。貴方であるならばきっと、と」
「―――自らの罪を認める勇気さえも、とっくの昔に私は消え失せてしまったのだよ……シャカ」
力なく笑みを浮かべてサガは瞳を伏せた。
「今なら……まだ間に合います。サガ。この機を逃せば貴方はーーー」
グッと唇をかみ締め、俯くシャカの身体にサガが手を伸ばす。ビクリと小さく跳ねたシャカにサガは悲しい笑みを浮かべた。
「おまえの力だけが欲しくて、おまえを深く傷つけ、貶めた。そんな私をなぜ哀れむ?」
「わたしは……」
「おまえの大切な友を……アイオリアを傷つけ、貶めた私をおまえは許せるのか?」
言葉に詰まるシャカに優しい言葉が悲しく響いた。
「それでいい。シャカ。茶番は続けよう……なに、そう長く続ける必要はないだろう。おまえも感じているだろうが」
「サガーーー」
「もう行け。今しばらくの間、聖域を離れておくがいい。闇の手が再びおまえを捉えぬように」
仮面を手に取り、素顔を覆い隠すと、サガは厚く閉ざされたカーテンの奥へと進んだ。
―――シャカ。
―――もう、“私”の名を呼んではいけない。
―――“私”がおまえを求めてしまうから。
作品名:Love of eternity 作家名:千珠